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カテゴリ:闘魂 コンバット史恵さんの巻 (完結済)
史恵がぐったりソファーの上に倒んでいると、事を聞きつけた史恵の夫が、出張先から電話をしてきた。ああいけない、夫に話すの忘れていた。朝はいつものように通学前の子供たちのばたばたで時間がなく、一人になってからゆっくり夫に電話しようと思っていたのに。一人になったら力が抜けてぼおっとしていた。 警察沙汰になったので、昨日のうちに領事館にも連絡を入れた。領事館にも連絡したので、夫の会社に連絡が行くかもと思い夫にも電話をした。出張中の夫の携帯は,よくあることだが何度かけてもつながらず、昨日はあきらめてしまったのだ。そしてこっちが忘れてるうちに、話は夫同士の勤め先が同じ潮田家から伝わったようだ。会社内では駐在家族の安全にかかわることなので、本社の海外事業部の総務係にも話がいったらしい。 夫は開口一番、 「いったい、なんてことをしたんだ? 強盗に向かって行ったんだって?」 やっぱり心配より先に批難なのね、と冷静に思いつつ、 「あなた、じゃあわたしに尻尾を巻いて逃げ出せというの?」 と、昨日息子が見ていたスパイダーマンの主人公のせりふを使って返してみる。とりあえずは反撃。 「あたりまえだっ。手なんか出して! 相手が武器でももってたら殺されてたかもしれないんだぞ。」 「ホント、そうよね。ホントその通り。自分でもそう思う。反省してる。」 史恵は、今度は自分が思っている通りを口に出す。一気に降伏、早々撤退。ほんとわたし、昨日は何で逃げなかったんだろう? 夫は、急にしおらしくなった史恵の泣きそうな気配を電話越しに感じたのか、黙ってしまった。 「すごく怖かったの。後ろから羽交い絞めにされてね、膝からカクーンって力が抜けて、地面に倒れて。そしたら。男が…は、犯人が、私が預かって手に持ってた潮田さんのかばん、ひっぱって取ろうとしたのよ。」 史恵は、泣いてはいけない、とこらえながら話し出した。一気にまくし立てる。止まったら泣いてしまう。 「そしたら、そしたら、かばんのチェーンが外れちゃって、犯人が勢いあまって転んで…」 「そしたら、そこで逃げれば良かったじゃないか。」 「そうなんだけど、ホントそうなんだけど、一瞬のうちに考えちゃって。かばん潮田さんのだし、きっと中にはクレジットカードとか、携帯とか、取られたら面倒なもの入ってるだろうし、そしたら、そしたら...」 「そしたらなんだっ?」 「股間が目の前にあったのよ」 股間なんて言葉を発音したのは初めてかもしれない。状況とは全然関係ないことが史恵の頭をよぎった。夫の声はワントーン上がった。 「はあ?」 この人、「こかん」がわからなかったんだわ。 頭は冷静なはずなのに、史恵の声はまだ上ずっている。 「尻餅ついた男が、立ち上がろうとしてるところで、私の目の前に、きゅ、急所がきたの。」 急所。ああ、これもあんまり口にしたことないかも。 「それで蹴ったのか?」 「違うわよ。蹴れるわけないでしょ。だってわたしも地べたに座り込んでたんだから。」 史恵の剣幕に、夫は思わず黙り込む。 「殴ったのよグーで。思いっきり」 地面で倒れたところから一気に蹴りを入れるなんて、カンフー映画じゃあるまいし。史恵は 「冷静な」頭で思う。 「もう。いい、帰ってから聞く。」 夫は吐き棄てるようにいうと電話を切ってしまった。 にほんブログ村 もっともっと駐妻!な方はこちら にほんブログ村 もっともっと小説!な方はこちら お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010年01月22日 20時25分53秒
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