Camille Bertault & David Helbock:Playground
4月30日はユネスコの「国際ジャズデー」というものだそうだ。この「国際ジャズデー」はジャズの普及と人々の交流を目的に2011年に決められたもので、この日に世界中のさまざまなコミュニティ、学校、アーティスト、歴史家、学者、愛好家が集まり、ジャズを祝い、そのルーツと現在の問題を探求し、異文化間の対話、国際協力、コミュニケーションのための素晴らしい手段を提供するとのこと。日本では特に話題になることはないと思うが、Qobuzなどでこの日に因んでセールが行われていた。以前から欲しかったACTのオーストリア出身のダヴィッド・ヘルボックというピアニストとフランスのヴォーカリストのカミーユ・ベルトーのデュオなど数枚を購入した。今回はこのデュオ・アルバムについて。ディストリビューターによると、アルバムタイトルの「Playground」=(遊び場)は、二人の才能と技術とアイディアが縦横無尽に飛び交い、デュオとしての可能性を遊びつくしたような内容となっているとのこと。ヘルボックとベルトーのオリジナルがそれぞれ4曲と3曲。その他ポピュラー・ミュージックやクラシックまで幅広いジャンルから選曲されている。歌詞が付いている「Good Morning Heartache」とビョークの「New World」以外はすべてベルトーの作詞。ヘルボックのピアノは骨太の音で低音をガンガンと響かせたパーカッシブなピアノ。一曲目はジスモンチの「フレーヴォ」ベルトーは同じフォーマットで以前録音している。この時はブラジルのピアニストClaudio Dauelsbergとのデュオで、筆者の好みから行くと、このバージョンのほうがソフトで爽やか。youtube 今回のヘルボックとのデュオでは、元気な歌だが、歌い方がバタ臭く、ピアノもガンガン弾いていて、原曲のイメージと少し違っているように思う。ビリー・ホリデーの持ち歌「 Good Morning Heartache」はフランス語での歌唱。しっとりとしてシャンソン風のしゃれた仕上がりがいい。スクリャービンの練習曲作品2の第1は「ホロヴィッツ・イン・モスクワ」でテーマ曲のように使われていて、忘れがたい曲だ。ベルトーのしっとりとしたヴォカリーズは悪くないが、ピアノがヒストリックピアノみたいな音がして、そこに効果音が加わっていて、曲の美しさが損なわれているような気がする。前衛音楽を思わせる不気味なイントロから始まるビョークの「New World」はビョークが主演と音楽を担当した映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」の挿入歌。原曲もエフェクトを取り入れているので違和感は少ないが、これではピアノとのデュオとは言えない。ヴォーカルは素直な歌い方で曲の良さが感じられる。ヘルボックのオリジナルでは「Never Lived」は明るい雰囲気で、速射砲のように繰り出されるスキャットが小気味よい。最後の「Para Hermeto」はブラジルの作曲家エルメート・パスコアールのことだろうか。速いテンポでスキャットが炸裂するスピード感あふれる演奏。ベルトーお得意の唇を手で震わせながら声を出す技も登場する。中間部ではパーカッションと複数のスキャットが重なり合い、アマゾンの密林?が再現される。これはオーバーダブではなくlive-loopingという楽器を使っているようだ。wikiによると『ルーパーやフレーズ・サンプラーと呼ばれる専用のハードウェア・デバイス、またはオーディオ・インターフェイスを備えたコンピューターで実行されるソフトウェアを使用して、音楽をリアルタイムで録音および再生すること』とのこと。これだと、あらかじめとっておいた楽曲の断片を連続して演奏したり、ちょっと前の音楽の断片を再生したりすることが出来るようだ。ミュージシャンにとっては、おもちゃ箱のようなものだろうが、使い方はセンスが必要だろう。Live Loopingガイドの動画是非映像で見たいトラックだと思って検索したら、セッションのヴィデオクリップがあった。ヘルボックはピアノの弦をたたいたり、パーカッションも使って奮闘している様子がよく分かる。このアルバムのベスト・トラックだろう。ベルトーのオリジナルの中では、「Bizarre」(奇妙な)が、ゆったりとして夢心地なムードが悪くない。ところがヘルボックのピアノがちょこまか動き回って、効果盛りだくさんで、せっかくの音楽が台無しになってしまった。ベルトーはこれで満足したのだろうか。彼女のほかの2曲の中では「Dans ma boîte」(In The Box)がエスプリの感じられる曲で、聴き手が思わずニヤリとする仕上がり。モンクの「Ask Me Now」はフランス語の歌詞で原曲のテイストを残しつつ、シャンソンのようなしゃれた味わいで、素晴らしい聴き物になった。ピアノもあまり余計なことをしなかったのも、上手くいった理由だろう。この方のピアノは才気走っていて、よく言えば躍動的だが、ちょっとうるさく感じることもある。音楽的嗜好がユリ・ケインに似て、旺盛な好奇心があるように感じられた。ということで、かなり好みの分かれる演奏ではあるが、ツボにはまったときは、絶大な効果を発揮している。Camille Bertault & David Helbock:Playground(ACT Music ACT9951)24bit 96kHz Flac1.Egberto Gismonti:Frevo2.Irene Higginbotham, Ervin Drake & Dan Fisher: Good Morning Heartache3.David Helbock:Lonely Supamen4.Alexander Scriabin:Étude in C-sharp minor, Op. 2, No.1 5.Camille Bertault:Aide-moi6.Björk:New World7.David Helbock:Das Fabelwesen8.Camille Bertault:Dans ma boîte9.Thelonious Monk:Ask Me Now10.David Helbock:Never Lived11.Camille Bertault:Bizarre12.David Helbock:Para HermetoCamille Bertault (voice)David Helbock (piano, percussion, live-looping, effects)Lyrics by Camille Bertault, except for Good Morning Heartache and New WorldRecorded by Michael Ungerer at Blackbird Music Studio, Berlin, December 15 & 16, 2021