Veronica Swift:Veronica Swift
いつものbandcampからの入手だが、ロスレスだったのが残念。ディストリビュータによると『ジャズ・シンガーとして育った彼女は、ニューアルバムにおいて自身の野望でもあった” ロック” を歌いたいと思っていた。ジャニス・ジョプリン、デヴィッド・ボウイ、ジミ・ヘンドリックス、デューク・エリントンなどのレジェンドに敬意を表し、ジャズとクラシックに、ロック、ソウル、ファンクをミックスしたヴェロニカ流のニューサウンドが詰まった作品になっている』とのこと。ギンギンのロックをやっていると思えば、クラシックのアリアみたいに堂々たる歌唱を聞かせるなど、今回は前作の社会的なアルバムとは様変わりで、本来のバップを交えて、エンターテインメントに徹しているように思う。スタートの「I Am What I Am」はエラそっくりのお得意のバップスキャットが炸裂する。途中のバロック風の掛け合いを含め鮮やかな仕上がり。トレント・レズナーの「Closer」は原曲がけだるいムードなのに対して、速めのテンポのファンク。きれきれのスキャットやトロイ・ロバーツのあくの強いテナーサックスもいい。バック・コーラスが入るところはソウル風味。エリントンの「Do Nothing Till You Hear from Me」ではホーンが加わったラージ・アンサンブルなのだが、クリス・ホワイトマンの強烈なエレキ・ギターやオルガンが加わり、ソウル色濃厚な演奏。ヴォーカルもソウル歌手並みのシャウトを交え、ジャズ歌手とは思えないほど強烈な印象を与える。この曲でこれほど個性的な演奏も聞いたことがない。「The Show Must Go On」はクラブでのライブだろうか。ピアノ、ベース、パーカッション、ギターという編成でラテンタッチの演奏。個性的なアレンジ揃いのアルバムの中ではオーソドックスな演奏で、逆に安心感?がある。「I'm Always Chasing Rainbows」はショパンの幻想即興曲メロディーを使った、ハリー・キャロルのミュージカルの曲だそうだが、筆者は初めて聞いた。小細工を弄しない堂々たる歌唱で声の伸びも申し分ない。本気で歌っているのかと思ってしまうのが、筆者の悪い癖かもしれない。バックはDavid Mannの編曲による管とdigital orchestration。デジタル臭が強く、違和感がある。「In the Moonlight」はベートーヴェンのピアノ・ソナタの伴奏音型を使ったスウィフトのオリジナル。かなり激しい演奏で説得力はある。これもオリジナルの「Severed Heads」ではオースティン:パターソンのヴォーカル二重唱。ギターを伴奏のバックにしたボサノヴァで悪くない。グノーの「Je veux vivre」はオペラ「ロメオとジュリエット」第1幕のアリア「私は夢に生きたい」が原曲。すっかりシャンソン風にアレンジされて、実にしゃれた仕上がり。アコーディオンやロマ風のヴァイオリンやギターが加わり、すっかりいい気分になってしまう。ジョビンの「Chega de Saudade」はアントワン・シルヴァーマンの情熱的なヴァイオリン・ソロに続き、原語で情熱的なヴォーカルが続く。ボサノヴァ本来のテイストではなく、豪華なオーケストラを率いた大歌手のヴォーカルのようだ。分厚いサウンドがゴージャスで、彼女はオペラ歌手みたいに高音の聴きどころで声を伸ばしているのが(気持ちは分かるが)笑える。アルバムの最後はミュージカル「ファニー・ガール」のナンバー「Don't Rain on My Parade」がロック・テイストで爆走する。芸風が変わったのか本来のバップから領域を拡大させたのかは分からないが、彼女の自信に満ちた歌唱には驚かされる。このアルバムを聴くと、彼女はジャズというマイナーな音楽の領域には収まらないスケールの大きさを獲得したのかもしれない。なにか吹っ切れたような潔さが感じられるが、どうしてそうなったのか、変わった理由を知りたいところだ。ディストリビューターの情報によると『前作のリリース後DownBeatの表紙に登場し、ヴォーカルリリースの年間リストでトップに輝き、ハリウッド・ボウルなどでの多様なステージショーで観客を魅了した』とのこと。周りの環境が目まぐるしく変化した結果なのかもしれない。ということで、これはセンセーショナルな問題作であり傑作だと思うご興味のある方は是非お聴き頂きたい。次回作はどうなるのか、これほど楽しみなミュージシャンもそうはいないだろう。Veronica Swift(Mack Avenue Records MAC1202)16bit 44.1kHz Flac1.Jerry Herman:I Am What I Am2.Trent Reznor:Closer3.Duke Ellington;Sidney Russell:Do Nothing Till You Hear from Me4.Brian May, Frederick Mercury, John Deacon, Roger Taylor, Ruggero Leoncavallo:The Show Must Go On5.Harry Carroll, Joseph McCarthy, Frédéric Chopin:I'm Always Chasing Rainbows6.Veronica Swift:In the Moonlight7.Veronica Swift:Severed Heads8.Gounod:Je Veux Vivre9.Antônio Carlos Jobim;Vinícius de Moraes:Chega de Saudade10.Brian May :Keep Yourself Alive11.Jule Styne;Bob Merrill:Don't Rain on My ParadeVeronica Swift(vo、background vocals tracks 2, 6, 10)Adam Klipple: piano (tracks 1, 4, 5, 6, 11), keyboards (tracks 2, 3), organ (tracks 2, 3, 10)Philip Norris: electric bass (tracks 2, 3, 6, 10)Alex Claffy: upright bass (tracks 1, 4)Chris Whiteman: guitars (tracks 2, 3, 6, 7, 10, 11)Brian Viglione: drums (tracks 1–3, 6, 10, 11), rhythm guitar (track 11), gang vocals (track 11)James Sarno: trumpet (tracks 2, 3, 6, 10)Troy Roberts: tenor sax (tracks 2, 3, 6, 10, 11)David Leon: baritone sax (tracks 2, 3, 6, 10)with:Mariano Aponte: gang vocals (track 11)Benny Benack III: trumpet (tracks 3, 6)Ludovic Bier: accordion (track 8)Pierre Blanchard: violin (track 8)Carolynne Framil: background vocals (tracks 2, 10)Antonio Licusati: upright bass (track 8)Felix Maldonado: electric bass (track 11)David Mann: woodwinds + digital orchestration (tracks 5, 9)Javier Nero: trombone (track 3) Austin Patterson: vocals (track 7)Luisito Quintero: percussion (track 4)Samson Schmitt: guitar (track 8)Antoine Silverman: violins + violas (tracks 5, 9)Randy Waldman: piano (track 5 [intro])