スタンダード集というと、有名なメロディが美しく演奏されるか、単なる材料として扱われるかのどちらかだろう。
メルドーの演奏は前者の部類には入るだろうが、あまり美しくない。
というよりは、美しく演奏することを避けているようにも感じる。
そのアプローチがメルドーらしいともいえるが、発売当初入手して何回も聞いているが、全体を覆うダークな雰囲気がどうにも気に入らない。
今になって感じるのは、原曲を良く知っている方ほどその面白さがわかるという、なかなかハイブローなアルバムだということで、聴き手を選ぶアルバムであることは確かだ。
最初の 「Since I Fell For You」は1945年にバディ・ジョンソンによって書かれたバラードでレニー・ウェルチによって録音されている。 youtube
なかなかロマンティックな歌だが。メルドーにかかるとその気配さえ感じられない。
どちらかというとブルースのような感じになっている。
アドリブは凄まじく迫力がある。
「I Concentrate On You」などのリズミックな曲はまだマシだ。
「These Foolish Things」は比較的常識的な演奏で、後半のカデンツァはなかなかいい。
注目されるのは、ビートルズの「And I Love Her」とマッカートニーの「My Valentine」だろうか。
どちらもミディアムテンポで、陰鬱な感じがする。
「My Valentine」は2012年のアルバムで発表された曲なので、まだスタンダードといわれるほど年月が経っていないが、他の曲に囲まれても違和感はない。
この曲はメルドーのアプローチにあっていて、曲の良さも感じられる。
「And I Love Her」は雰囲気は気に入らないが、メルドーのアドリブが刺激的だ。
パーカーの「Cheryl」をスタンダードという感覚もわからない。
ミディアムテンポで粘っこいアプローチはキース・ジャレットを思い起こさせる。
「Little Person」は３分ほどの短い演奏で、ここでもけだるさが支配的だ。
この曲のことを知ろうと検索していたら、どうも以前見たことのある映像が出てきた。
フィリップ・シーモア・ホフマン主演の「脳内ニューヨーク」で使われていた曲だった。
アメリカのシンガーソング・ライターのジョン・ブライオンの曲で、映画では女性が歌っていた。
２００８年の映画で、音楽が気に入って、サントラまで購入していることを確認。
おまけに、ヴォーカル物２曲の中で、いいと言っているのは「Song for Caden」だと書かれている。
内容を見るとあくまでも全体を不思議な音楽と感じていたので、このナンバーに注目しなかったのかもしれない。
原曲は淡々とながれる曲だが、メルドーの演奏は味付けを濃くしている。
それが味わいを深めていて、アルバムの中では最も気に入った。
最近のジャズマンは選曲がジャズにこだわらないので、他のジャンルの音楽に疎い当方としては、なかなかついていけない。
ただ、知らない曲を知ることができるのは、とても楽しい。
ジャズメンに取り上げられることの多いトーキング・ヘッズのナンバーを聞いたことで、彼らのアルバムを何枚か聞いて、その素晴らしさに気づかされたこともあった。
ところで、件のサントラを聴きたいのだが例によってどこにあるのかわからない。。。。
こういう不都合を解消するためにNASに音源を入れているのだが、このアルバムはまだ入っていない。
なので、とりあえずネットに転がっている音源を聴いてみた。
曲を確認するにはこれで十分なのだが、ちゃんとした音で聞きたいというのが年寄のこだわりなのだ。
BRAD MEHLDAU TRIO:BLUES AND BALLADS(NONESUCH 7559-79465-0)
1. Since I Fell For You
2. I Concentrate On You
3. Little Person
4. Cheryl
5. These Foolish Things (Remind Me of You) *
6. And I Love Her
7. My Valentine
Brad Mehldau(p)
Larry Grenadier(b)
Jeff Ballard(Ds)
Recorded December 10,2010(track 1,4,6,7),May 12,2014(track 2,3,5)
