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カテゴリ:小説/物語
その顔は、この世のものとは思い難い状況だった。
これでもかというほどの厚化粧をした女が大泣きしたらこんな顔になるという見本を見せてもらったような気がした。 その状況がどんなものだったかを詳細に文章化するのは敢えてやめておくが、、、ともかく悲惨なものだった。 それでもまーちゃんは「お母ちゃん!」と言って泣きながら抱き着いた。 ヤンキー女は身をかがめてそれを受け止めて泣いた。 「まー、ごめん、ごめんな。」と言いながら泣いた。 その訳は聞かなくても理解できた。 戦災孤児として生きてきた先輩のお母さんである。 その壮絶な体験から子供にとって親という存在はどんなに大切なものかを切々と語ったのだろう。 それはいくらバカなヤンキー女といえども理解ができたのだろう。 私がそんなことを考えていると先輩のお母さんは我々に「まあ中に入って温ったかいものでも飲もう。」と家の中に招き入れてくれた。 そしてまずはまーちゃんを椅子に座らせてお菓子を与え、ヤンキー女には洗面所で顔を洗うように言い、私には台所でお茶の準備を手伝うように言った。 台所で2人になったとき、先輩のお母さんは私に「ありがとうな。ホンマにありがとう。ようやってくれたわ。」と言った。 私は首を横に振り「いえ、全然です。まーちゃんを泣かせてしまって帰りの時間の約束も守れませんでした。」と返した。 でもお母さんは「いや、あんでええねん。たとえ誰が連れて行ってもあの子は泣いたで。あの子はホンマはお母ちゃんと行きたかったんや。」と言ってくれたが私はその言葉に納得はできなかった。 そしてお弁当の中身を見たときの自分のとった言動と、それに対してまーちゃんはどうしたかを全て話した。 しばらく話を聞いたあと、先輩のお母さんは「その弁当見たらうちでもキレてるわ。でもあの子のその反応を見てまーちゃんの気持ちを理解できたあんたやろ。それでこそやねん。やっぱり今日のことをあんたにお願いしたんは間違いなかったわ。ホンマ、おおきにやで。」と言ってくれた。 しかし、もちろん全く私の気持ちは晴れなかった。 そう、、、 あのお弁当がまーちゃんにとって大切な唯一無二の食べ物であることを誰よりも理解できなければならない存在が自分だったことを知っているのは私自身だったのだから、、、。 何のために、あの冬に冷え切ったチキンハンバーグを食べ続けてきたのか! そう思うと本当に自分の愚かさが憎かった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.01.30 02:45:01
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