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カテゴリ:投資手法
小売業などでは、月次売上の対前年比を公表している企業が多くあり、月次発表に注目している投資家は多いと思います。
大抵の場合、月次発表では対前年比の全店と既存店の売上が%で表示されているだけで、売上金額や利益額は記載されていません。 季節や月によって、売上高や利益率は異なります。 評価・分析をする際には、単純に対前年比の数値に一喜一憂するのではなく、各月の重みを考慮する必要があります。 まずは簡単な例からみていきましょう。 四半期ごとの営業利益の比重です。 たとえばポイント(2685)の場合、各四半期の営業利益の、通期営業利益に対する比率は、次のようになっています。 1Q 2Q 3Q 4Q 2005.2期 24.9% 19.5% 32.5% 23.1% 2006.2期 25.7% 20.5% 31.6% 22.2% 2007.2期 24.1% 16.0% 34.5% 25.5% 2008.2期 26.1% 14.8% 36.0% 23.1% 2009.2期 21.1% 16.8% 36.7% 25.4% 2Q(6~8月)の比重が小さく、3Q(9~11月)の比重が大きくなっています。 したがって夏の月次発表には過度に一喜一憂する必要はなく、秋の月次発表が重要であることがわかります。 次に、月単位の売上高の変動について、考えてみましょう。 ある月の売上が対前年比120%で、翌月が90%だった場合、売上高の進捗状況はどうなっていると思いますか? 例えばこの企業がおもちゃ屋さんで、クリスマスの売上高が多いのであれば、12月の販売状況が重要になります。 12月が120%であれば好調と評価できますが、11月が120%で12月が90%の場合には、不調と判断すべきでしょう。 クリスマスやバレンタインデイなど、売上の多い月を想像できる場合もありますが、その比重や、それ以外ではどの月の売上高が多いのかは、わかりません。 そこで、月単位の売上高の比重を推定する方法を、考えてみました。 月次発表では、単月の対前年比と、累計の対前年比が記載されています。 たとえば次のようになっていたとします。 前年の売上高 今年の売上高 今年の単月% 今年の累計% 1月 100 120 120% 120% 2月 200 180 90% 100% 単月の対前年比が120%と90%という数字だけを見れば好調そうなのですが(単純平均だと105%)、この会社は2月の売上の比重が大きいようです。 そのため累計では、100%に留まっています。 実際に公表される数値は、対前年比の「今年の単月%」と「今年の累計%」だけです。これらの数値から、1月と2月の売上高の比重を推定します。 2月の累計%がどのように計算されるのかを考えると、逆算方法がわかります。 (今年の1月の売上高+今年の2月の売上高) ÷ (前年の1月の売上高+前年の2月の売上高) = 2月の累計% です。 今年の1月の売上高 = 前年の1月売上高 × 1月の単月% 今年の2月の売上高 = 前年の2月売上高 × 2月の単月% 前年の1月の売上高を基準(=1)として考え、前年の2月の比重をAとすると、 前年の2月の売上高 = A となります。 これらを最初の式に代入すると、 (1×1月の単月%+A×2月の単月%) ÷ (1+A) = 2月の累計% となり、この式が成立するようなAを求めれば、1月と2月の比重がわかります。 前述の数値例ですと、 (1.2 + 0.9A) ÷ (1 + A) = 1 となり、A=2 が導き出されます。 すなわち前年は、2月は1月の2倍の販売量であったということになり、例題の数値と合っていますね。 3月も同様の考え方で計算できますが、3か月分だと式が長くなりますので、ここでは割愛します。 これを四半期売上(3か月分)ごとに区切って計算することにより、1月から12月まで各月の比重を容易に推定できます。(累計が四半期ごとの場合) 累計が半期単位になっている場合は、6か月分まで計算する必要があります。 なお天候の影響などにより、年により売上高にはバラツキがありますので、単年度だけではなく複数年度で計算して、月ごとの売上傾向を調べることを、お勧めします。 さて、対前年比%には、全店と既存店があります。 どちらの数値を使うのがよいのでしょう。 各月ごとの売上高の傾向を知ることが目的ですので、安定しているほうが望ましいと言えます。したがって、既存店の数値を使うべきだと思います。 ただし、既存店でも店舗数は月ごとに変動している可能性もあり、誤差が出てしまいます。 厳密に算出したい場合には、店舗数の比率により調整するとよいと思います。 四半期決算の売上高より、各月の売上高の数値も逆算できます。 この場合には、前年の各月の売上推計には上記の方法で求めた比重を用いて、四半期売上高を各月に配分しますが、今年の売上推計は全店売上%を使うと良いと思います。 前年1月の売上高 = 四半期売上高 × 1 ÷ (1+2月の比重+3月の比重) 今年の月別売上高 = 前年の月別売上高 × 全店単月% また会社にもよりますが、単体四半期決算の売上数値を使ったほうがよいかもしれません。 最後に実例として、ポイントの2008.2期および2009.2期の6月~8月の数値をもとに、月次売上高を計算した結果を例示します。 (店舗数による調整は行っていません。) 2008.2推計 2009.2推計 2009.2全店% 既存店単月% 既存店累計% 比重 6月 5791 6359 109.8% 90.4% 90.4% 1.00 7月 6354 7924 124.7% 105.5% 98.3% 1.10 8月 3572 4855 135.9% 109.3% 100.8% 0.62 2008.2期の2Q決算の四半期売上高:15718(単体) 上記推計に基づく2009.2期6月~8月の月別売上合計は、19138 になります。 これは2009.2期の2Q決算短信(単体)の売上高である、19203 と近い値になっています。 参考: その前年(2007.2期)の比重は、6月:1.00 7月:1.48 8月:0.64 でした。 昨年(2009.2期)の比重は、6月:1.00 7月:1.32 です。 過去のデータを集計すると、2月と8月の売上が少なく、一番多いのは1月です。その他7月と10月以降が多くなっています。 ただでさえ利益への貢献度の低い6-8月期にあって、その中でも8月の売上は特に低いようです。8月の月次は、あまり気にする必要がなさそうですね。 ただし、月次発表を気にしている人が大勢いれば、株価への影響はあります。 昨年の8月のポイントの売上は、全店135.9% 既存店109.3% と好調でしたので、ハードルが高いです。そのため今月の数値は、厳しいことが予想されます。 それを嫌気して株価が下落したら、逆に投資のチャンスかもしれません。 ※タイミングの話をしているだけで、推奨しているわけではありません。 ポイントの利益予測方法に興味がある方は、「ポイントの粗利率と在庫の関係」もご参照ください。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.08.06 13:08:30
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