「何だよ、離せよ!」
「こんな夜遅くまで、何処に行ってたんだ?」
「あんたには関係ねぇだろう?さっさとホテルに帰ってあの人に愛想笑いのひとつでも浮かべてやれよ!」
「何だ、親に向かってその口の利き方は!」
「お生憎様、俺はあんたの事一度も父親だなんて思っちゃいないよ!大体何だよ、今まで俺の事を放っておいた癖に今更父親面するのかよ!」
「彗・・」
高史は彗の言葉に深く傷つき、巽橋から去っていく彼を黙って見送ることしかできなった。
(あいつの言う通りだ・・僕は、父親失格だ・・)
今まで彼の事を蔑ろにしてきた癖に、自分の世間体を保つためだけに彼に対して“理想の家族像”を押しつけようとしている己の醜さと愚かさに高史は気づいた。
もう彗は、自分達を見限っている。
15年間、彼を蔑ろにしてきたツケが、今になって回って来たのだ。
「お帰りなさい、あなた。」
「ただいま・・」
「どうなさったのです?まさか、お義父様に何か言われましたの?」
「さっき巽橋で、彗に会った・・」
「まぁ、それで?」
「無理矢理僕があいつをホテルに連れ戻そうとした時、あいつは今まで自分を蔑ろにした癖に今更父親面するなと僕に言って去っていった。あいつの言う通りだ・・」
「あなた、彗さんもきっとあなたのお気持ちを解ってくださる日が来ますわ。」
結子はそう言って高史の肩を優しく擦った。
「結子、僕は今まであの子に対して、間違った接し方をしてしまったのかもしれないな・・15年間溜まりに溜まって来たツケが、こんな形で回って来るとはね・・」
高史は結子の手を取ってそう呟くと、自嘲めいた笑みを口元に浮かべた。
(またお父さん達、泣いてる・・)
リビングルームの明りがついていることに気づいた淳史がベッドから抜け出し、寝室のドアを少し開けてそっと中の様子を覗くと、ソファで何かを話している両親の姿があった。
「もうあの子は、僕には手に負えない。」
「そんな事をおっしゃらないで、あなた。」
彼らがまた、彗の事について話していることに淳史は気づき、そっと寝室のドアを閉めた。
(彗お兄ちゃんは、どうして僕達を嫌うのかなぁ?)
何度か淳史は彗と会ったことがあったが、その時も何処か彼は自分と母親に対してよそよしかった。
それは父親が別の女と再婚し、半分血が繋がらない兄弟の存在を彼は認めたくはなかったからなのか。
淳史は、彗が何を想っているのかがわからなかった。
「どうしたの、淳史?まだ起きていたの?」
「ねぇお母さん、どうして彗お兄ちゃんは僕達の事を嫌っているの?」
「それは・・お母さんにも解らないわ。」
そう言って自分に笑った母は、何処か悲しそうだった。
それを見た淳史は、母を深く傷つけてしまったと後悔した。
(もう、お母さんに彗お兄ちゃんのことを聞くのは止めよう・・)
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Last updated
Sep 25, 2013 10:07:36 PM
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