12343498 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

GAIA

GAIA

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
全て | 報徳記&二宮翁夜話 | 二宮尊徳先生故地&観音巡礼 | イマジン | ネイチャー | マザー・テレサとマハトマ・ガンジーの世界 | 宮澤賢治の世界 | 五日市剛・今野華都子さんの世界 | 和歌・俳句&道歌選 | パワーか、フォースか | 木谷ポルソッタ倶楽部ほか | 尊徳先生の世界 | 鈴木藤三郎 | 井口丑二 | クロムウェル カーライル著&天路歴程 | 広井勇&八田與一 | イギリス史、ニューイングランド史 | 遠州の報徳運動 | 日本社会の病巣 | 世界人類に真正の文明の実現せんことを | 三國隆志先生の世界 | 満州棄民・シベリア抑留 | 技師鳥居信平著述集 | 資料で読む 技師鳥居信平著述集  | 徳島県技師鳥居信平 | ドラッカー | 結跏趺坐 | 鎌倉殿の13人 | ウクライナ | 徳川家康
2016年05月07日
XML

2 由布院の宿

「母が由布院に行きたかったと言っていたのです」

先日、お母さんを亡くされた友人から電話があった。

「母の供養といってはおかしいのですが、由布院に行こうと思います」

友人はお母さんを由布院に案内する気持ちなんだろうな。私は思った。

友人は早朝の高速バスで大分に着くという。

うん、私は悩んだ。早朝から開いている食堂など由布院にはない。

私はある旅館の主に頼んだ。

「朝食だけをつくつて戴きませんか?」

そこの旅館は温泉も一般客に開放していなかった。

宿泊客を大切にする小さな旅館として知られていた。

私は事情を話した。主の顔が崩れた。

「わかりました。宿泊のお客様の朝食が終わる頃にご用意しましょう」

微笑みながら言った主の次の言葉が忘れられない。

「お母さんもご友人の方もお疲れですから、温泉にまず浸かって下さい」

当日、友人をその旅館に案内した。

紅葉に彩られた緑の小径に、友人は驚いていた。

「こんな旅館で朝食ができるのですか?」

私は何も言わずにフロントに近づいた。

「お荷物など貴重品をお預かりします」

フロントの担当者は普段どおりの対応をしてくれた。

朝の湯煙が漂う温泉に入った。

「あああーっ、ひと息つける。やっぱり温泉っていいですよね」

「お母さんも女性風呂に浸かっていると思いますよ」

友人は遠くを見る目つきをした。

温泉から上がると、食事の場に仲居さんが案内してくれた。

一番端の静かな席だった。友人と友人の知人、そして私は座った。

「まずは地ビールで乾杯をしますかな」

私は友人に微笑みながら言った。

地ビールで乾杯した。湯上がりのビールはおいしかった。

仲居さんが朝食の準備を始めた。友人と私達はビールを呑んでいた。

仲居さんが御飯と味噌汁を持ってきていた。

ビールを呑んで、少しお酒を呑む気でいた。

「朝から呑んでもいいですか」と主には了解を得ていたのに

そんなに早く御飯や味噌汁を持ってきてと、私は苛立った。

仲居さんは、私の苛立ちに関係ないような顔をした。

仲居さんは、私や友人の前でなくひとつ席をつくり始めた。

御飯とおみそ汁と漬け物と箸とコップをキレイに並べ終えた。

「お母様のお席です。みなさまでお食事をゆっくりと楽しんで下さい」

友人は呆然としていた。お母さんのことを思い出しているのだろう。

私は旅館の主の気配りに感謝していた。

「それでは、もう一度乾杯しますかな。

 お母さん、由布院へようこそいらっしゃいました」

 

紅葉の由布院の朝、それはそれは透きとおるような青空が広がっていた。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2016年05月07日 01時59分04秒
[木谷ポルソッタ倶楽部ほか] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.