ふくやのくりくりくん・・・。
先週末、秋冬物のシャツを買いに横浜の某百貨店に行ったときのことです。買おうとしていたのは、普通の襟付きの長袖シャツ。メンズフロアを見て回っていると、あるテナントで白のシャツが目にとまり、店内へ。ちょっと変わったデザインだったので、手にとって見ていました。値段は4900円。ほぼ想定内の金額。と思っていたら・・・「いらっしゃいませ!」と、元気のいい声で男性店員がやってきました。「これは今年の新作で、当店のオリジナルです。普通より少し細身に作ってあるんですよ!」と・・・まるでクマのぬいぐるみのような、純真なくりくりっとした瞳で、僕の目を真っ直ぐに見つめるのです。雰囲気としては俳優の伊藤淳史さん(TV「チームバチスタ」や「電車男」で主演)に似た感じでした。年齢はおそらく20代半ばかなあ?「よろしかったら、合わせてみませんか?」と、店内の姿見を手で指す。デザインは気に入っていたので、とりあえず姿見の前へ...「えっと、お客様は、M?L?どちらでしょう?」と。僕は身長の割には胸囲や肩幅があるんです。なので、Mだと袖の長さはいいけど、胸周りがパツパツ。Lだと、胸はちょうど良いけど、袖があまってしまう・・・ということで、モノによってMだったりLだったりするわけです。そのときは、「じゃ、まずMを」といってMに袖を通したのですが、肩を入れた瞬間、もうキツい・・・『やっぱりね~Mじゃムリだわ』と思って脱ごうとしたのですが、なぜかくりくり君、素早く僕の前に回り、前ボタンを締めはじめている!そして、「いかがですかっ!」と、くりっくりの目で鏡に映った僕を見る。『オイオイ!どうみてもムリだろ~』と心の中で思いつつ・・・「ちょっとキツいなあ。Lを着させてもらえますか?」すぐにLサイズを試着。肩は良かったのですが、やはり胸周りはギリギリ。。。普通に着ている分にはいいけど、胸を反らせたり、伸びをしたら、ボタンが飛ぶかも・・・?その割には案の定、袖は手のこぶし分くらい長い。『そういえば普通より細身に作ってあると・・・言ってたなあ?』やっぱりムリだな・・・と、脱ごうとしたら、またもやくりくり君はボタンを締めはじめている!すると、そのときはじめて気がついたような口調で、「あれっ!お客さん、ガタイいいですねえ~!」と。今かよっ!Mの時点で気付かないかっ?とは思ったけど、「ん~ピッタリすぎるっていうか~ねえ~」と、つぶやいていたら・・・くりくり君が、「でも、この上にジャケットとか着ますよね?シャツがフィットしていれば、ジャケット着てもシャツがシワになりませんよ!」と言う。「それはそうだろうけど・・・」と僕が言うと彼は、「試しにジャケットお持ちしますので、少々お待ちください!」と、店の奥に消えていったのです。『仕事熱心だけど、ちょっと強引な店員だなあ~』と思っていたら、黒のジャケットを持ってきた。で、着てみると...。光沢感のある、黒とグレーの中間くらいのウール地で、軽い!外側にはポケットが一切なく、スマートなデザイン。その日の僕のボトムはストーンウォッシュのブルージーンズ。それに白のシャツ+黒のジャケット...。超コンサバな組み合わせだけど、見た目は悪くはない。「ジャケットはいくらですか?」と聞く。するとクリクリ君、「ハイッ! よんまんはっせんえんになりますっ!」と、なぜか誇らしげに言い放ったのでした・・・!48000円・・・いや、そのくらいの製品かもしれないよ。確かに。でもね、今日の僕はせいぜい5000円くらいのシャツを買いに来ただけで、ジャケットなんて・・・ましてやそんな高価な買い物をする気はまったくなかったんだよ~。普通ならこういう場合、「なんか売られている感じ・・・」「押し付けがましい感じ・・・」って思うんだけど、くりくり君の場合、まったくそういうイヤな感覚は持たなかった。たぶん、本当に、真剣に、僕に似合うものを持って来てくれたんだろうな・・・って感じたから。でも、やっぱりシャツのパツパツ問題は、なんら解決してはいません。「ちなみにこの上のサイズっていうのは・・・?」ためしに聞いてみると、「この商品は、MとLのみしか作ってないんです」なるほど。ま、確かにそれ以上のガタイには似合わないだろうな。このシャツは・・・と納得。「でもやっぱりねえ。ホラ~」と少し胸を張ってみると、当然前はパツパツに。すると、一瞬、くりくり君の瞳から力強さが消えました。さすがに彼も、無理があることが分かったのでしょう。「全体的にはすごくいいんだけど、やっぱりサイズがね。あとジャケットは、ちょっと高すぎて買えないなあ」と、静かに脱ぎ始めると、くりくり君はそれ以上の抵抗(?)はせず、でも残念そうな顔をしながら、脱ぐのを手伝ってくれました。・・・・・・・・・・・・・・・・自分の服に着替えた僕、「色々ありがとうございました。他も見て回りたいので・・・。すいませんでした・・・」と言ったら、くりくり君・・・瞳に輝きが戻り、「いいえ!またお待ちしています!ありがとうございました!」と頭を下げたのです。何も買ってないのに・・・少し歩き始めて振り返ろうとしましたが、やめました。たぶん彼がまだそこに立っているような気がしたから。本当は、他の店も見たかったのでですが、僕はそのままエスカレーターに乗って、下に降りました。フロア内を一周したら、また彼に会うかもしれない。なぜか、それは避けたかったんです。顔を合わせるのがツラくて・・・。でも、僕の気分は晴れやかでした。『くりくり君、買ってあげられなくてごめんね。だけどキミの誠意はすごく伝わってきたよ!それにあのジャケット・・・高かったけど、あれを選んで持ってきたキミのセンスは間違ってないと思う。大丈夫!まだまだ若いんだから、これから経験をつめばいい店員になると思うよ~あっでも、お客の体型は一目で分かってちょーだいな!ふくやさんなんだからさ!失敗をおそれず、そのつぶらな瞳で突き進め~!ガンバレ!くりくり君~!それゆけ!くりくり君~~♪』