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2016.01.17
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カテゴリ:江戸珍臭奇譚 
角館.jpg

尻の穴、緩めすぎちゃいけねえな、、、、

 本所深川の堀をまたぐように、深川八幡宮、州崎弁天、回向院、両国橋の袂、常磐町、六間堀に『貸し雪隠、お菊の間』の幟が立ち、庶民はもちろん、芝居見物や物見遊山のお内儀、武家の奥方に奥女中、寺社参拝のお姫様、中には大名や旗本の行列も利用する、便利このうえない貸し便屋は瞬く間に江戸の人気の場所になった。
 駕篭屋には「お江戸貸し雪隠一覧」という地図さえ配った。みんなの悩みだったのである。もう、食べたくもない団子や蕎麦を食べて、ついでのふりをして厠を借りる必要もなくなった。江戸の皆から支持されて貸し便屋は大当たりだったのである。
 貸し便屋の厠番には熊五郎の手下を借りて雇った。一回六文、糞は一桶二十五文で熊五郎が買い取った。お菊は毎日、への字を連れて町々の貸し便屋を廻っては銭を回収した。うはうはであった。
「への字、上野、浅草、両国橋、日本橋、神田明神、柳橋、湯島天神、芝増上寺、猿若町、にも出したいねえ」

 だが、好事魔多しとはよくいったもので、話はとんとん拍子とはいかなかった。貸し便屋の噂を南町奉行鳥居耀蔵に密告したのが、遊女の尻を撫ぜて、熊五郎に金玉を切り落とされた金なしの音次である。鳥居耀蔵にとっても地虫の熊五郎は縁戚の早乙女角二郎を切った極悪人であり、おから村を潰そうとして、痛い目にあった憎き男であった。
「そうか、貸し便屋に熊五郎が一枚噛んでいたとはな、あの糞野郎がな、」
「へいっ、あちこちの貸し便屋の厠番は熊五郎の手下が雇われています。もちろんその糞も熊五郎が回収してます」
「うむむむっ、よし、音次、たしかおめえのいい仲になってる、尻毛の桔梗という女がいたな、ほんとに尻毛が生えてるのか?」
「へいっ、尻毛は確かに生えてますが、桔梗ほどの美人でもありませんが、、」
「よしっ、その尻毛の桔梗に貸し便屋をやらせろ、いいか、向こうが六文なら、こっちは五文だ、それにな、浅草紙もつけろ、臭い消しの香も焚け、」
 そう言って、鳥居耀蔵は手文庫から、支度金として、三十両を金無しの音次に渡した
「頼むぞ、ドジを踏むな、お菊の間の隣にことごとく作れ、そして、必ずお菊の間を潰せ!!」
「ようござんす、面白くなってきそうで、、尻がむずむずしてきやした、、、」

 間もなく、音次の手配で、尻毛の桔梗という女が「貸し便屋 桔梗」を開業した。
「貸し便屋桔梗」は、茶室風の建物にし、臭い消しに香炉を漂わせて、浅草紙つきでおひとり様一回五文である。
「貸し便屋お菊の間」にとってはとんでもない、商売敵の登場である。とても勝負にならない。
 お客はみなお菊の間から桔梗へと流れてしまって、お菊の間には閑古鳥が鳴いていた。だが、尻毛の桔梗の間の方にも問題があった。糞が垂れ流しだったので、鯉や泥鰌は喜んだが、うんこの身投げで、どぼんという音がし、ぱちゃんとおつりがきて、着物を汚すこともあった。
 次第に、お客の評判も二手に分かれ、お菊の間も桔梗もそれぞれにお客が入っていた。南町奉行鳥居耀蔵は音次を呼びつけて、
「なにをもたもたしておる、銭がかかっているのだぞ、お主の貸し便屋はわしのお墨付きだ、早く、お菊の間を潰さぬか!」
 と、発破をかけた。金無しの音次は、手下の者を朝一番にお菊の間へ入れ、夕方まで厠でしゃがみこませ、客が入れぬように邪魔をしたが、夕方厠から出てきた手下は、ことごとく膝が曲がらぬようになって、そのままひっくり返って、この作戦は失敗した。

 貸し便屋を利用する者はそんな裏事情もしらずに、便利になったと喜んでいたが、町の人々は憤慨していた。堀にうんこがぷかぷか浮いている、嫌な臭いが堀から湧いてくる。
「これじゃあ、鯉も泥鰌も鰻も蜆だって、臭くて食えねえよ!」
「死ぬのに綺麗も穢ねもありゃあしねえが、うんこが浮いてちゃ身投げもできねえやぃ!」
「こりゃあたまらねえ、町役人さんなんとかしてくれねえと、とにかく、この堀じゃ洗い物もできやしねえ」
 掘の近くに住む住民から抗議の声が町役人に寄せられ、町名主は連名で、奉行所に訴えた。堀の管理清掃は各町の管轄場所だった。訴えは老中の耳にも届き、水野忠邦は、またも糞騒動に巻き込まれた南北奉行所の処置に頭を痛めていた。
「幕府がご政道の改革を進めねばならぬ時に、こんな下らぬことで足踏みしおって、、、、遠山、貸し便屋はすべて取り潰せ、喧嘩両成敗にせよ、あとあとしこりの残らぬように、しかるべき裁定をせよ、よいな」

 北町奉行遠山左衛門尉影元は苦虫を潰していた。囲碁狂いの見廻り同心真壁平四朗が役宅に呼ばれていた。
「お主も知っていようが、お菊とかいう女と尻毛の桔梗とかいう女が貸し雪隠をやっているようだが、奉行所に苦情が来ておる。堀にぷかぷかうんこが浮いては町の者も堪らんだろう。なんとか取り締まれぬのか?」
「はっ、お菊の間のほうには熊五郎が一枚噛んでいるようで、糞の始末は熊五郎の手で始末してるらいいのですが、、尻毛の桔梗は金無しの音次の色でして、裏では鳥居様が指図しているようで、迂闊に手出しはできそうにもなく、かといって、糞を始末しているお菊の方だけを取り潰しにするのも道理に適わぬことでございまして、、」
「ふっーん、そうけえ、尻毛の桔梗の方には南町が絡んでいたのか、こいつはまた面倒なことになりそうだ」

(つづく)

作:朽木一空

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最終更新日  2016.01.17 19:00:34
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