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カテゴリ:江戸珍臭奇譚
北町奉行遠山左衛門尉影元はお菊と尻毛の桔梗の両名をお白州に座らせてた。
「お前たちが営業している、貸し雪隠は町民から町役人を通して苦情が多数寄せられている。掘割が汚れて、これでは、泥鰌も食えぬ、洗い物もできぬ、とな、、」 「お奉行様、私ども、お菊の間では糞尿は地虫の熊五郎に頼んで、回収しておりまして、堀を汚すことはしておりません。汚しているのは垂れ流しの桔梗の間でございます」 「いいえ、お菊の間では糞壺をくみ取っていると申しますが、ぴしゃぴしゃこぼして、堀に流れる量も見過ごすことのできぬ量でございます、それに私どももすでに、葛西の権四郎様にお願いして糞尿の回収の手筈もつけておりますゆえ、もうしばらくの御猶予をいただきますよう、お願いします。」 お菊も尻毛の桔梗もひるまず、異議申し立てをする。 「両名の者、よく聞け、江戸市中に貸し便屋の幟があちこちに立ってはみっともない、他国の大名にも笑われている始末だ。糞尿は自宅で済まし、街中を歩くときには尻の中を空にして歩くのが常道というものだ、いつでもどこでも気軽に排便できるなどということは、人民がだらしなく、ふしだらになり、尻の穴がますます緩くなり、始末に負えぬこととなる。そのような風潮は正さねばならぬ。それに、堀の上とはいえ、そこは町の所有物であり、町が管理しているところである、つまり、不法占拠である。その町役人から苦情がきておるのだ。したがって、貸し便お菊の間も桔梗の間もとり潰し、早急に撤去せい」 「しかし、お奉行様、それでは町の人がお困りではないでしょうか」 「うむっ、そうじゃのう、そちたちが尻の穴を緩める手伝いをしてしまったからのう、だが、掛け茶屋の元締めには必ず厠を用意すること、茶店や神社にも無料で厠を貸すという、厠を用意していない店は営業まかりならぬ、という、触れを出すことにした。つまり、これからは、町中でもようしても、困らぬ江戸にするということだ」 お菊も尻毛の桔梗も御上の裁定には逆らえない、渋々ながら承諾するしか仕方がなかった。これにて一件落着!!べんべんべん、 「貸し便お菊もおしめえだってよ、お菊の尻穴、菊模様の肛門様も見納だいっ!」 貸し便屋取り潰しの瓦版が江戸の町に舞い、江戸っ子はさらっとして笑い飛ばした。暫くして、江戸の町から貸し便屋は姿を消した。 やることがなくなったお菊とへの字は、宗兵衛長屋で、ぽかんっと口を開けて暇していたが、日暮れがやってきて、空虚な気持ちを紛らわそうと、徳利をぶら下げて、大川の土手へ出た。暮れ六つをすぎて、提灯や行燈をぶら下げた船が行き交い、船の中から賑やかに三味や唄が聞こえ漏れてきていた。 「いいねえ、船遊びは、そうだ、長屋の連中で船遊びしようよ、なあ、へいの字、貸し便屋で稼いだ金がむずむずしてるんだもん」 お菊は佐賀町の船宿から屋根船を借りて、長屋の連中、もちろん、大家の宗兵衛に見廻り同心真壁平四朗と、手習い師匠の柳井文吾も招待し、大川を両国橋から、花川戸の方まで、船を走らせた。棹捌きのいい若い船頭の着流しの裾が川風に翻るがえり、長屋のおかみさんはきゃっきゃっと、はしゃいでいた。 三味線と小唄の深川芸者が花を添え、上や下えのどんちゃん騒ぎは浮世の垢を忘れさせてくれた。お菊の鬱屈していた気持ちも川風で流れていくようで気持ちがよかった。長屋の者も大はしゃぎ、料理も酒もたらふく飲んで食べ、唄い踊って、船が舳先を変えて、佐賀町へ引き帰そうとした頃、誰もが尿意で下腹部を膨らませていた。男どもは船の障子を開けて、気持ちよさそうに川へ流れしょんべんでいいが、女はそうはいかない。 「ああ、おしっこが漏れそうだ、もうどうにもとまらない、」 「船べりからしやがれ、誰も腐れ毛饅頭なんか覗きやしねえよ」 「ちゃんと簾を下げといてよ、覗いちゃいやあーん」 あれっ、お菊にも久々頻便がやってきた。船には厠がないっ、あれっ、困った。私のは腐れ毛饅頭じゃない。誰にも見せるわけはいかない。その経験から、お菊はあることを思いついていた。 「おいっ、への字、また忙しくなるからな」 (つづく) 作:朽木一空 ※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。 またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016.01.21 11:03:28
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