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アンチエイジングの鬼

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2008年01月21日
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寒い毎日が続きますが、みなさまお元気でしょうか?
さて、先週の月曜日に300年以上続く老舗の造り酒屋である千葉県の「寺田本家」さんの酒蔵に見学ツアーに行ってまいりました。
このツアーを企画したのは池袋のオーガニックバー「たまにはtsukiでも眺めましょ」のマスター高坂さん。
ここは環境問題に関心のある人やナチュラリスト達の集まる、知る人ぞ知るちょっと不思議な隠れ家バー。
寺田本家さんのレアなお酒が飲める数少ないバーであり、食材はオーガニックでしかもおいしい。
正真正銘国産大豆100%の池袋のお豆腐屋さん「大桃豆腐」さんの激うま豆腐なども、無添加のおしょうゆでおいしく頂けます。
さて、今回はそこのお客さん総勢30名で寺田本家さんを訪ねました。

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東京からバスで2時間。千葉県香取郡。豊かな稲作地域で、発酵醸造に適した土地柄か周囲には造り酒屋がいくつか見受けられ、とてものどかな雰囲気。
その中でも寺田本家さんは蔵の一部が有形文化財に指定されているほどの歴史深いたたずまいです。
私達が降り立つと、蔵の人々が何人か出迎えて下さいましたが、その中に23代目当主の寺田啓佐(けいすけ)さんがいらっしゃいました。

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私は年末に寺田さんの「発酵道」という本を読ませて頂き、ひどく感銘を受けました。
この本は、人生の書です。本当にすごい本なのでみなさんぜひ読んでみて下さい!





寺田本家では不思議なことに、もう調べきれないほどの大昔から女の子しか生まれないので、当主はほとんどが婿養子なのですが、寺田さんもまた昭和49年に入り婿してからの当主。
それまではまったくの畑違いの電化製品の営業マンで、しかも相当な凄腕だったそう。
当主になってからも利益優先で醸造アルコール添加のお酒を有名ブランドに桶売りし、グルタミン酸ソーダなどの添加物を入れて作っていたそうです。
しかし日本酒の売り上げは時代の流れで低迷し、業績は悪化。さまざまなチャレンジをしたもののうまくいかず、すべてを周囲のせいにし、賭け事に走る日々。
大量のタバコを吸い、食事は肉好きで三食カツ丼でもいいくらいだったそうです。


そして婿入りして10年、、、寺田さんはついに「痔ろう」という直腸の管が腐る病気になってしまいました。


ひどくなると人工肛門になる病気だそうですが、それはギリギリ免れたものの手術はお尻の形が変わるほど壮絶だったそう。
ここからがすごいのですが、寺田さんはこの病気をしたことで自分のこれまでの生き方がすべて間違っていたと気づくのです。
自分の心も、会社の経営も、自分の腸も腐っていた。
どうすれば腐らなくなるのか?


そうだ!発酵すれば腐らない!!
自分を発酵させていこう!会社も発酵していこう!
人の役に立つ、喜ばれる、百薬の長になりうるお酒を造ろう!
35歳。すべてを一からやり直す寺田さんのスタートが始まります。



「蔵は金を得るための場所じゃない。自分がここに来るずっと前から棲みついていた微生物たちが力を合わせて発酵を続けている場所だったんだ」

ここからの寺田さんが、本当にすごいのです。誰にでも真似出来る所業じゃありません。
寺田さんは、まず現在の日本酒業界の主流である添加物で造る「速醸」をやめて、今やどこの蔵でもほとんどやっていない2倍の時間がかかる昔ながらの酒造りを復活させ、その上赤字経営だったにも関わらず、原料を3倍の値段がする「無農薬米」に切り替えたのです。
一般に行われている速醸造りは、乳酸を加えて、日本醸造協会が人工的に培養した酵母を添加して発酵させるそうですが、これらの純粋培養されたものは少しの腐敗菌にも弱く、蔵を薬品で消毒しなければならないそうです。
乳酸や酵母を添加しない昔ながらの造り方では、蔵に住み着いている微生物がひとりでに働いて酒母を作っていきます。
これは手間も時間もかかりますが、蔵によって味わいの違う深い風味の酒が出来るそうです。

「腸には体に有用に働く善玉菌と腐敗物質を作る悪玉菌、どっちにもつく可能性がある日和見菌があるが、自分の腸が腐ったのは悪玉菌が優勢になりすぎて日和見菌も総動員したせいだ」と寺田さんは言います。
酒造りでも悪玉菌が繁殖してしまうことで「腐造」という酒を腐らせてしまう現象があるそう。
だからどこの蔵も必死で消毒に精を出すわけですが、本来悪玉菌が悪いんじゃなく、その場が「発酵場」であれば、どんな悪玉菌もたくさんは繁殖できないそうです。
純粋培養された、化学合成された乳酸や酵母と違い、自然界にいる多種多様な乳酸や酵母は強く、しかもその場が発酵方向に行っている「発酵場」であれば、どんな雑菌が来ても腐敗方向に引きずられることはないそう。


なんだか青森の木村さんのお話を思い出しませんか?
「害虫、益虫というのは本来ない、農薬を使わなくても畑のバランスがよければ害虫はいなくなる。虫は理由があってそこにいる、、、」



さて、本を読んだ私の寺田さんへのイメージは、元営業マンということや、ものすごい熱い文章から受けるギラギラとアクティブな感じでした。
ところが実際にお会いした寺田さんは、信じられないくらい「静」の人。宮沢賢治の「欲はなく決していからず、いつも静かに笑っている」という詩のフレーズが出てくるような方。
これにまず仰天しました。
そして蔵を見学させて頂いたのですが、驚くのは写真のように、ここの蔵ではお米を手で洗っているんですね。

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「私は、手からは光が出ていると思っているんです。
出来上がったお酒の味も、手で洗うことで変わるように思います。」



寺田さんは静かに言います。
そして私たちを歓迎するために、いつも蔵で仕込みの時に歌っている「仕込み歌」をみんなで歌って下さいました。
昔、酒蔵では時間を計るため、歌を歌ったようです。
民謡をやっているという蔵人のナカジさんの歌声が響きます。
歌う理由のひとつに、蔵人がストレスを溜めず楽しくお酒を作る、そして喜びの酒を作ることで、その酒を飲む人に喜びを伝えられるからと、ナカジさんは言います。

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御酒(おみき)とは、うれしき、たのしき、ありがたきの3つの「き」のこと。
これこそが「発酵場」なんだと寺田さんは言います。


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そして次に通された、蒸したお米に麹菌を植えつけて「米麹」を造る麹室。
温度は30度くらいに保たれています。
写真の白い布に包まれているのが、寝かされている蒸し米。
私達30人は、特別手も洗っていなければ、白衣に着替えてもいません。カバンを持ったまま、コートも着たまんま。
しかもうちの息子をはじめ、数人の子供も普通に部屋に通されて遊んでいます。
私は他の蔵に行った事がありませんが、普通、麹室にこんな多人数の一般人を通すことなど、まずあり得ないそうです。
「発酵場」が出来ているから、どんな腐敗菌がきてもけちらしてしまうそう。
場を良くするために、壁には全面に炭が埋められています。
マイナスの感情も場を乱すので奥さんに怒られた時には、部屋には入らないそう(笑)
普通の蔵では薬品でやっきになって消毒しているという麹室の掃除は、寺田本家ではなんと掃き掃除と水拭きだけ。しかも壁は麹菌がいるから出来るだけ触らないそう。
そのせいで、今や麹菌をふりかけなくてもその部屋に蒸し米をおいておくだけでも麹米になってしまうんだそう。
これは、すごいことです。

「これは、人間の世界にも当てはまります。除菌除菌とやりまくったあげくが、アレルギーの蔓延じゃないんでしょうか。
悪玉菌、善玉菌、いいひと、やなひと、、でも本来この世に必要のない菌も、必要のない人もいない。その場が発酵場であればいいんです。
悪い菌だと嫌われる菌にも実は役割がある。良い菌だけ集めてもおいしい酒は出来ないんですよ。」


まだまだ驚きのお話があるんです。
長くなりすぎるので、続きは次回!


うれしき、たのしき、ありがたき!
私も発酵していくぞっ!!



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Last updated  2008年02月03日 23時45分28秒
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