書評「明日へつながる5つの物語」
「明日へつながる5つの物語」あさのあつこ 角川文庫紐解いたのは、「岡山藩物語」が収録してあると聞いたから。岡山市が自治体PR誌としてつくった6篇の短編集なのだが、未取得だった。此処には2篇載っている。古代がテーマのあと4篇が不掲載だったのは残念だったけど、これも読み応えあった。この短編集全部、時代や地域の周辺で頑張っている者たちに焦点を当てている。池田綱政なんて、名君で父親の池田光政と比べると知られていないし、地元では名臣・津田永忠こそ知られているけど全国的には無名である。ましてや、国宝・閑谷学校のあの見事な石の壁を築いた石工なんて、誰も知らない。後楽園の造営、備前平野の広大な沖新田の干拓を支えた高い技術の基に、大阪で孤児になった藤吉の頑張りがあった事も読んだあとなら信じられる。幸島稲荷神社のひょうたん石は全く知らなかった。今度行ってみよう。あとの数篇も、企業や自治体とのコラボ企画である。あさのあつこは、私は長編作家として位置付けていた。有名になった「バッテリー」にしても、天才投手の物語として描けば1-2巻で終わる内容だ。それが全7巻になったのは、ひとつ一つの気持ちを丁寧に汲み取っていった結果であるし、あさのあつこさんはそういう書き方しか出来ないのだと思っていた。本巻も、出来事よりも、主人公たちの気持ちを描いている。それでもスパッと終わらせて、後味が良い作品ばかりだった。いっとき、あさのあつこコンプリートを目指して、あまりもの「多作」ぶりに諦めたことがあった。また少し読み始めようかな、と思わせた文庫オリジナルであった。