巴里の旅の思い出或いは「パリ、ジュテーム」
正月から今にかけてたくさんのDVDを観た。本も何冊も読んだ。書く時間がない。すこしづつ書いていきたい。「パリ、ジュテーム」製作: 2006年 仏・独監督: トム・ティクヴァ / ガス・ヴァン・サント / ジョエル&イーサン・コーエン / アルフォンソ・キュアロン / ウォルターサレス&ダニエラ・トマス / アレクサンダー・ペイン / イサベル・コイシェ / クリストファー・ドイル / 他出演: ナタリー・ポートマン / イライジャ・ウッド / ジュリエット・ビノシュ / スティーブ・ブシェミ / ウィレム・デフォー / リュディヴィーヌ・サニエ / ファニー・アルダン / ジーナ・ローランズ / ベン・ギャザラ / ミランダ・リチャードソン / ギャスパー・ウリエル / マギー・ギレンホール / バーベット・シュローダー / 他恋愛映画の老舗、フランスから届いた素敵な短編集。18人の監督たちによる五分間の珠玉のパリ案内。去年、大ファンのナタリーポートマンが出演しているというのに、映画館で見損なった作品。でも、もちろん彼女の出番はたったの5分間のみ。でも観てよかった。なかには消化不良の作品もあるけれども、総じてなかなかしゃれた恋愛映画ばかりだった。一晩だけパリに泊まった14年前の旅を思い出した。添乗員が素晴らしくて、効率よく巴里の街を見物させてくれた。オルセー美術館、モンマルトルの丘、牡蠣料理のレストラン、下町のスーパー‥‥‥。夜はどこに行ってもいいという。添乗員の推薦で、モンマルトルの丘のそばにある、ピカソも通ったという、伝統あるシャンソン歌声喫茶(みたいなもの)に、同室の男友達と二人だけで挑戦してみた。薄暗い一室に入ると人の群れ、あまり有名ではなさそうなシャンソン歌手がすぐ目の前で何曲か歌っては去っていく。しばらく聞くうちに、生のシャンソンの素晴らしさ。バリエーションの豊かさにすっかり参ってしまった。歌詞は全然分らないけれども、(私たちはフランス語は全く出来なかった。)時には楽しく、時には哀しく、「感情」がダイレクトに伝わってきた。心に響いてきた。そうまるで、今回の映画の五分間ごとの作品のように、シャンソンのひとつひとつがひとつのドラマであるということがありありと分るのである。一人のシャンソン歌手が見慣れない東洋人が来ているのを見つけた。「ジャポン?」我々は「ウィ」とか返事をする。こんなマイナーなところに来たのに、フランス語が全然できないことを彼はすぐに気がつく。歌手がひとつジョークを言う。会場は爆笑する。我々は困った。何かしゃれたことを言えばいいのだろうか、もちろんできない。我々は「日本的スマイル」でニコニコしている。それで彼はまた何かを言う。会場はさらに爆笑する。ここにいたって我々はからかわれているのは明らかであるが、我々は決して怒らない。日本的スマイルを崩さない。‥‥‥イヤ、我々は本当に怒っていなかった。或いは感情を表に出せばまだよかったのだが、真実をいえばうれしかった。あんな素晴らしい歌を持っている歌手が我々の相手をしてくれているのだから。‥‥‥あとで思えば、このときのことがこの旅での最大の成果-カルチャーショックであった。日本人なら決して異国のお客をからかうということはしないだろう。それが「礼儀」だと思っているからである。観客の中にはどう見ても「侮蔑」の表情が見て取れた気がした。「シャンソンの歌詞も分らない、フランス語も知らないような輩が、こんなところに来やがって‥‥‥」それはフランスのナショナリズムだったのかもしれない。その愛国心がときに、外国人労働者を排除し、時にブッシュの米国にノーを言う。そんな表情を肌で知ったのは、成果だった。‥‥‥でもシャンソンは素晴らしかった。素敵なたびの思い出である。