テーマ:ミステリはお好き?(1450)
カテゴリ:本の話(日本の作家・あ行)
アイスクリームに目がない、とくにバニラが大好き!というあなたが、偶然クーポン券を手に入れたとします。
ハーゲンダッツの売り場で5カップ、好きなものをプレゼント! 全部バニラにします?ストロベリーも捨てがたいし、新発売のアフォガードも美味しそうよ。 例えばの話ですけどね ( ̄¬ ̄) 私はやっぱり、色々な味のものを選んでしまうと思います。 なんて話をしたのも、 5つのフレーバーのアイスクリームを楽しんだ・・・読み終えてそんな気がした短編集だったので。 ![]() 林真紅郎、元法医学者。愛妻を事故で亡くしたのを契機に、勤務先の大学を辞し、35歳の若さで「隠居」生活に入った。そんなある日、12歳の姪と行ったコンサートで事件は起きた。ステージ上のマジックで消えた女性が、トイレの個室で殴打された姿で発見される(「いちばん奥の個室」)。バラバラの謎が真紅郎の脳裏でシンクロするとき、一挙に“事件”は解決する!本格推理の傑作。 (先日の、カリスマ書店員さんに見つけてもらった本です。) 「いちばん奥の密室」 主人公の真紅郎が姪の仁美ちゃんに付き添ってアイドルグループのコンサートに行った席で出くわす密室殺人。 「ひいらぎ駅の怪事件」 風雨の強いある夕方、たたずむ人を見わたせるほどの混み具合の駅で、若い女の子のカメラが置いてあった手提げから消えた。その中の誰かが盗ったのか? 「陽炎のように」 学生時代の友人が妻を亡くしたという。夏の盛り、級友と葬儀に出かけた真紅郎は不思議な体験をする。死者の魂が身の回りをさまよっているのか? 彼女はひょっとして、春先から話題になっていた未解決の「手切り魔」事件と関係があったのか? 「過去から来た信号」 幼馴染に偶然再会した真紅郎。彼から、自分が小学生の頃、暗号づくりに夢中だったことを聞かされる。そういえば、第3の仮名五十音を作った記憶がある。彼が見せてくれたのは昔自分がその仮名で書いた年賀状。五十音表はみつからない・・・そこには何が書かれているのか? 「雪とボウガンのパズル」 雪の朝、散歩の途中に出会った知り合いの学生と、彼が住むアパートの前まで来たところ、庭にボウガンで射られた死体が。 真紅郎は、その歳まだ35歳。かつて法医学者をしていたのですが、愛妻の死をきっかけに退職して現在無職。 おばさんとしては、もったいない!と思いながらも、この子、それまで一直線に真理の追究のみを求めていたなんて、少し鬱になって人生の小休止なのかしら、とも思えます。 そんな真紅郎なので、事件に出会うと、自ずから推理せずにはいられない・・・ その名も「シンクロ推理」といいます。 彼の脳裏には、今回の事件に見られた大小さまざまな謎が、複雑な波形を描いて見えていた。しかしそれは複数の波が重なってできたもので、うまく分割しさえすれば、ここの物事は意外と単純な形に帰するものだ。・・・あらゆるバリエーションを見渡せば、中には必ず、事件の謎と見事にシンクロするものが現れる。そしてそれこそが真実なのであった。 二つの波がシンクロする・・・シンクロする・・・そして重なった! こんな具合です。 最初に読んだときには「は?」と思いました(笑) アニメの探偵が見得を切るシーンそのもののようで。 ちょっと馴染めない感があったのですが、5編読むうちに慣れてしまいました(爆) 法医学者だったということで、警察にもある程度の顔が利く真紅郎ではありますが、積極的に捜査をし、困ったときには伝家の宝刀という浅見光彦系の探偵ではありません。 むしろ、その場に居合わせながらただ状況から推理する、という安楽椅子探偵に近いものがあります。 しかも、決定的に他の探偵とは違うのが、「彼が推理しなかったとしても、事件は変わらず解決する?」という結末になっている話が多いこと。 また、中にはその推理がてんで的を外れていた・・・というものもあるのです。 ただ、彼が推理をすることで、思いもよらない<別の>解決を生むこともあるのでした。 1篇目では、その推理のクライマックスシーンのキメ描写(↑)といい、それから(細かな話ですが)文中の句読点のうち方といい、正直なところちょっと読みにくい印象でした。 読んでいてどう呼吸を合わせればいいのか戸惑う感があったのです。 ところが、その解決編が予想外の物であったために、楽しくなってしまったというところです。 いつの間にか句読点のリズムも気にならなくなっており・・・(これはパラパラと見返してみても、1篇目に限って妙に句点が多いようですね) 一番面白いと思ったのは、暗号モノの4篇目。 「ナンクロ」というパズルをご存知でしょうか。クロスワードと同じような表があり、全てのマスに番号が振られています。一つの番号に一つの文字が対応しています。 クロスワードと違ってタテヨコのキーはなく、この番号の繰り返しから、文字を当ててゆくパズルです。楽しいのよ。 それと同じような推理行程で話が進みます。つい、なるほど~とつられて行くと・・・おっとっと、なのですが、ハッピーな結末が用意されているし、最後に添えられた「見つけられた五十音表」で年賀状の文章を読んでみると、笑わずにはいられないというオマケつきです。 最も探偵小説ぽいのは5篇目でしょうか。 バニラ味、本格ものです。 結論が、少しばかりやりきれない余韻をもたらします。 ではオススメのアフォガード味がどれか、というと、3篇目かもしれません。 不気味な猟奇殺人の推理と並行して、夏の日の昼下がり、ふっと背筋に冷や汗が伝うような体験・・・それが・・・ 本格的な安楽椅子探偵の事件推理と並行して、日常の謎系の推理も楽しめる、2度美味しい作品でした。 どの話も「たまたま、こうなったまでのこと」といったタッチになっており、(くどいようですが)キメのシーンが漫画的であるのとも相俟って、軽く読むことのできる短編集でした。 それでも味わいはなかなかに本格です。 続きが読んでみたいものですが、そのときには真紅郎に復職していてもらいたい気がします。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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