遠まわりする雛
省エネをモットーとする折木奉太郎は“古典部”部員・千反田えるの頼みで、地元の祭事「生き雛まつり」へ参加する。十二単をまとった「生き雛」が町を練り歩くという祭りだが、連絡の手違いで開催が危ぶまれる事態に。千反田の機転で祭事は無事に執り行われたが、その「手違い」が気になる彼女は奉太郎とともに真相を推理する─。あざやかな謎と春に揺れる心がまぶしい表題作ほか“古典部”を過ぎゆく1年を描いた全7編。
【目次】
やるべきことなら手短に/大罪を犯す/正体見たり/心あたりのある者は/あきましておめでとう/手作りチョコレート事件/遠まわりする雛
(「BOOK」データベースより)
文庫化を待っていた作品です。
旅行のときに持って行く本というのは、ちょっと気を使います。移動中の少しの時間でも入り込める楽しさと、休憩を入れながら読んでも気が削がれない興味深さ、そしてここが重要ですが、旅の雰囲気を邪魔しない雰囲気でないとなりません。
でもこれは、ぴったりでした。
古典部シリーズ初の短編集で、時系列的にはこれまでの長編の間に挟まるように、入学(入部)直後から次の春休みまでの1年間を追っています。
奉太郎くんたちのキャラクターは、ファンにはもう馴染みのところなので、短い話の中でもすぐに生き生きと動き出す。
書かれたのも長編と並行ではなく、出版と同じく、これまでの3作品の後のようです。
なので、しばらくはスピンオフ作品を楽しむような感覚で読んでいました。
入学直後、1年生の間で噂になった音楽室の亡霊事件。
怒りで生徒に暴言を吐いた数学教師の勘違いの理由。
古典部、夏の合宿で訪れた温泉宿での幽霊事件。
これまでの長編にくらべると、事件の深刻さはずっと小さくて、平和なプチ・日常の謎、みたいな味わい。
そう思って読んでいきました。
とくに楽しい謎解きが、『心あたりのある者は』。
奉太郎くんと千反田さんの会話のみで構成された、ロジック推理ものですが、二人の性格がよく出ていて愉快です。
それとともに、このあたりから、短編ミステリー集とは別な味わいが、ぐっと増してきます。
それが何かは読んでのお楽しみですが、思春期最中の古典部4人が、生き生きと高校生活を送っている…とだけ書いておきます。
キラキラしていて、ページをめくる自分も制服を着た高校生にもどったよう。
圧巻は表題作の『遠まわりする雛』。
春をむかえかけた遠くの山並み、稲田の広がる集落、小川ぞいに1本だけ早咲きした桜の木。
どんなに美しい眺めでしょう。
そして、それよりも美しいのは、ときめく若い心。邪な思いなどなく、光さす明日を疑わず、今生きている高校生。
読み終えて本を閉じるとき、きっと誰も微笑んでいると思います。
高校時代の、若さ故の苦しさみたいなものが書かれたこれまでの作品から、カーテンをめくって大きく息を吸い込んだような一冊。
若いって、やっぱりいいです。
シリーズ5作目も出ました!
ふたりの距離の概算
あいつが誰かを傷つけるなんて─俺は信じない。すれ違う心の距離を奉太郎は解き明かせるのか。“古典部”シリーズ最新刊。(「BOOK」データベースより)
【追記】
いまガンがこの本を読んでいます。
気づけば、古典部の面々と同じ高1なのでありますよ。
自分の若い頃とかぶらせるようにして読んでいたので、何だか複雑だわぁ…
2章まで読んだところでの、ガンの一言。
「にしてもさ、こんな高校生いなくね?
いたら、気持ち悪くね?こんな、語彙がある高校生。
ふつう、高校生って言ったら、
「まじ?超やっべー」
くらいしか言わなくね?」
【さらに追記】
読み終えたガン。
「なんか、よくわかんなかった」
…
……
わからない?
まだ、わからないんだ!
そうなんだぁ…青春、まだまだこれからなんだね!