ある日、アヒルバス
アヒルバス入社五年の観光バスガイド・高松秀子(通称デコ)はわがままツアー客に振り回されたり、いきなり新人研修の教育係にされたりと悩み多きお仕事の毎日。
さらにある日、アヒルバスを揺るがす大事件も起きて…
笑いあり、感動ありのバスガイドたちの姿を東京の車窓風景とともに生き生きと描く。
文庫のための書き下ろし短編・東京スカイツリー篇(「リアルデコ」)収録。 (「BOOK」データベースより)
山本作品は初めて手にしたのですが、うわ~、楽しかった。
元気とか、若さとか、明るさとか、溌剌とか。
表紙の黄色そのままの、燦燦としたエネルギーが満ちている一冊でした。
バスツアー、一番印象にあるのは、やっぱり修学旅行かなぁ…。
ガイドも聞かずにクラス全員しゃべりまくり!
一昨年、大阪市内をまわった水陸両用バスの<ダックツアー>(あっ、これってアヒルバスw)では、ユーモアあふれる語りに、ドライブをめいっぱい楽しみました。
最近テレビの番組で見たバスガイドさんは、お休みの時間にカフェでノートを広げ、ぶあつい歴史の参考書や観光案内、地図をテーブルいっぱいに広げて、
「学生時代にもこんなに勉強しませんでした。
もう、人生で一番っていうくらい、勉強してます…覚えておきたいことばかりで…」
と笑っていました。
バスガイド。大変な仕事なのだろうなぁ。
主人公のデコは、高校の先生の勧め(といっても、どうも思いつきっぽい言葉にしか思えないのだけど)にその気になってバスガイドになりました。
憧れていたとか、目指していたとかいうことではないのです。
出身は東京都。でも(というのは本文中デコが語っている言い方です)八王子。
東京が好きだから、観光客をどうしても案内したいから、というわけでもない。
可愛い制服に身を包んでいても、楽しいばかりの仕事ではありません。
バスのスケジュールは守りながら、お客さまは楽しませなければなりません。
朝、日の出前に寮を出て、寝るのは日付が変わってからということもざら。
覚えなくてはならないのは、ガイドの内容ばかりではなくて、その日のお客の数、顔。
(そのテクニックにはびっくりです!)
腹の立つことだって、落ち込むことだって、ない日は無いに違いない。
それでも、一生懸命、力いっぱい働くデコ。
特別に責任感が強い性格であるとか、もともと優等生であるとかではないけれど、ただそれが自分の仕事だから一生懸命になる。
それが、読んでいて彼女を応援する気持ちをふくらませ、いつの間にか、自分が彼女に励まされています。
生き生きとしたエネルギーが満ちてきて、なんだか毎日が楽しくなる。
デコちゃんと友達だったら…あるいは、自分を慕ってくるドジな後輩がデコちゃんだったとしても、きっとその存在は、窓から吹き込む気持ちいい風のようだろうと思います。
表紙のデザインの色のままに、明るい光をとじこめたような一冊でした!