年越しの読書はこの本、と決めていました。
毎年1冊刊行されている、小説・ぶたぶたさんシリーズ。
この冬もまた、ぶたぶたさんに会えました!
キッチンぶたぶた
高校三年生の由良は、幼い頃から心臓が悪く、入退院を繰り返している。いつになったら普通の暮らしができるんだろう…。
ある日、「体に悪いもの」を食べに病室を抜け出した由良。そこで出会ったのは、小さな体でフライパンを振る不思議な生き物(?)の姿だった(「初めてのお一人様」)。
心優しき料理人・ぶたぶたが、周囲の人々に温かな波紋を拡げてゆく四つの物語。文庫書下ろし。
【目次】 初めてのお一人様/鼻が臭い/プリンのキゲン/初めてのバイト
(「BOOK」データベースより)
作品ごとにお仕事を変えているぶたぶたさん。
今回は、住宅街のまちかどで営業している、小さな洋食屋さんのシェフでした。
収められている4篇とも、語り手は、ぶたぶたさんがお店で料理を作ってくれる人だとは知りません。
サッカーボールぐらいの大きさの、ピンク色のぶたのぬいぐるみだけれど、中年男性の声でお話をするし、携帯も使うし、人生の機微を知っていて焼酎だって飲む…
そんなぶたぶたさんのこと、私は知っているけど、知らない人の方がずっと多い。
そして、もし出会ったら、驚きのあまりその事実を受け入れられない人だっているはずです。
ぶたぶたさんは、いつもながらに飄々として温かく、そしておいしい料理を作ります。
小さな身体で厨房を行き来し、スープや定食や、デザートやサンドイッチや…
そんなぶたぶたさんが近くにいたら、どうするかな。
ぶたぶたさんに会いたくて本を開くのだけれど、楽しんでしまうのが、ぶたぶたさんとの初対面で、動転しながらその場に馴染んでいく人々の、あたふたぶりの物語です。
入院中、病院食と全然違うものが食べたくなって、黙って抜けだした女子高生。足の向くまま歩いて、たどりついたのがぶたぶたさんのお店<キッチンやまざき>でした。
臭覚がおかしくなって食事のおいしさがわからなくなった男性は、ジムのサウナでライバルと目していたぶたぶたさんが料理人なのを知ります。
プリンに目がないOLが、うわさを聞いて訪ねたのが、<キッチンやまざき>。やっとのことで手に入れたぶたぶたさん製のプリンには、おいしさに秘密がありました。
そして、一番はらはら(クスクス)するのが最後の一篇。
風邪を引いたいとこに頼まれて、<キッチンやまざき>でアルバイトをすることになった女子大生。下見のつもりでお店に行ったところ、なんとご主人が誘拐されたのだと聞き、成り行きで捜しに行くことになります。
彼女は、そのご主人がぶたぶたさんだとは――ぬいぐるみだとはまさか知りもしないのです。
それにしても、ぶたぶたさんがその町で、人々に愛されていること。
料理が上手だというばかりでなく、見た目の可愛らしさばかりでなく、やはりその「お人柄」でしょうか。
ぶたぶたさんも、周りの人達も…あたたかな町を訪ねた気分。その町がどこかにあると思うと、目の前の景色もやわらかく見えます。