阪急電車
隣に座った女性は、よく行く図書館で見かけるあの人だった…。
片道わずか15分のローカル線で起きる小さな奇跡の数々。
乗り合わせただけの乗客の人生が少しずつ交差し、やがて希望の物語が紡がれる。
恋の始まり、別れの兆し、途中下車─人数分のドラマを乗せた電車はどこまでもは続かない線路を走っていく。ほっこり胸キュンの傑作長篇小説。(「BOOK」データベースより)
阪急電車、先日の京都旅行でも乗ってきました。
小豆色をした、飾らないけれど品が良くて、何だかおしゃれな雰囲気がある電車です。
この小説に描かれているのは今津線、路線がちがうけれど、たしかになにか、温かでロマンチックなドラマが似合いそうな電車…。
データベースの紹介文には「長編小説」とありますが、連作短編集といったほうがいいでしょう。
宝塚駅から西宮北口駅まで8駅、片道15分の路線だそうですが、その路線図にそって各駅名が、章ごとのタイトルになっています。
最初のページをめくれば、あなたも車上の人。
同じ電車に乗り合わせ、すれ違った人達のドラマが、少しずつ交わって――
図書館で話題の1冊の本を争奪した…と一方的に思っていた彼女と、電車の席で隣り合わせになった征志。
彼女は、窓の外の中洲に見える不思議なオブジェに夢中です。つられて目を止めたことから会話が始まって…
順風満帆だった社内恋愛の、恋人を同僚に「寝取られて」しまった翔子は、彼等の結婚式の日、この電車に乗ります。
孫と一緒の老婦人は、乗り合わせた若い人達のことを見るうちに、してみたかったあることを、思い立つ。
気に入らないことがあるとすぐキレる彼。それでも一緒にいたいと思っていたけれど、この日電車の中で怒りだし、ホームで彼女を突き飛ばすようにして去っていった彼との生活から、ミサが我に帰ったきっかけは。
そんなミサの目の前に乗り込んできた賑やかな女子高校生たちの、笑けるコイバナ。
関西弁がものすごく、可愛いです。
軍事オタク、で通っている大学生の圭一の前に現れた、同じ授業の教科書を持つ、純情そうな女の子。二人の会話は思いもよらない方に進んでいき…。
初夏の頃、こうして宝塚・西宮北口を走った阪急電車。
半年ほど過ぎた日、折り返して走る車両も、また人々の思いを乗せ、新しい出会いをつくりながら走っているのです。
単行本が出た頃からこの作品は新聞紙上でも評判で、読むのを楽しみにしていた作品でした。
待っていた甲斐がありました。
紙上の広告では、たしか「翔子さんの潔さ絶賛!」みたいなコピーがありました。
ほんとに、翔子さんはじめどの人も皆、魅力的なキャラクターでした。
中でも私が一番好きなのは、えっちゃんのアホな彼氏。なかなかのいい男ではありませんか!
毎晩、1駅分ずつ読もう――と思いながらつい、もう1駅、もう少しだけ、と乗り過ごしてしまう。
ここ数日は夜更かしが続きました。
読み終えた今も、立ち去りがたいような幸せな気分が続いています。
今津線に乗ったら、いいコトが待っている、なんていうのが幻想なのはわかっているけれど、それでもいつか、実際に乗りに行きたい。
ぼんやりと、車中の人を眺めたり、窓の外に目をやったり、するために乗るんです。楽しそう。
…読めばきっと、その「楽しそう」なのがわかるはずです。夏の終わり、小さな旅をするつもりで、開いて欲しい1冊です。