チャージコントローラ5(回路図の読み方2)
パーツの解説や回路を読む上での基本的な考え方の解説は終わりましたので、これから各部の電圧や動作について考えてみましょう。解らなくなったら、その都度前の記事に戻って読み直してくださいね。まず、この並列制御タイプの充電コントローラの動作原理なのですが、PVモジュール(太陽電池)に光が当たると、その時の光のエネルギーにみあった電圧を発生し、そこに抵抗を繋げば「光のエネルギーに比例した一定の電流」が抵抗に流れます。バッテリーに繋げばバッテリーに充電されます。その時、バッテリー電圧(12Vとか24Vとか)よりPVモジュールの電圧が高くないと、バッテリーに充電できません。これは当たり前です。ところが、バッテリーが満充電になっても、PVモジュールをつなぎっぱなしだと、バッテリーが過充電で破損します。例えば内部の水が電気分解され干上がってしまうようなことが起こります。PVモジュールは「光のエネルギーに比例した一定の電流」を流そうとしますので、バッテリーに流れ込む電流をバイパスして、バッテリーが過充電にならないようにするのが、この並列制御タイプのチャージ・コントローラの動作原理です。PVモジュールが発電した電流は光量に比例した一定の値で、それが、負荷(電化製品など電流を消費するもの)とバッテリーの充電電流(満充電になると流れなくなる)と残りはこのジャージ・コントローラに流れます。負荷がPVモジュールが発電した電流値を越えると、バッテリーから補充されます。このときはチャージ・コントローラには電流は流れていません。負荷も無く、バッテリーも満充電なら、PVモジュールが発電した電流は全てチャージ・コントローラに流れます。このように、PVモジュールが発電した一定の電流の余剰分をバイパスするのがチャージ・コントローラの役割です。この余剰分は刻々と変化しますので、それに追従する能力が要求されますが、それはそれほど難しいことではありません。バッテリーの充電電圧の上限にチャージ・コントローラの電圧を設定することで解決します。24Vのバッテリーの満充電電圧は25.5V程度なので、それ以上の電圧例えば27V程度に設定します。後は発電電流と充電状況をモニターしながら調整します。この回路は並列制御型電源回路(シャント・レギュレータ)とよばれていまして、基本動作の解説は検索すればいくらでも出てきます。例えば、以下のようなサイトです。http://japan.renesas.com/support/faqs/faq_results/Q1000000-Q9999999/linear/pw/pw4_005j.jsp表題の回路図を見る場合、100kΩの可変抵抗器より左側の回路ブロックとMOS-FETとそれに付随する100Ω、47kΩ、3Ω20Wのセメント抵抗6本(直列、並列接続でトータル2Ω120W)とに大きく2つに分けて考えます。左側の回路ブロックで、さらに左端の手描き1のダイオードが2本、手描き2の3.7Vツェナー・ダイオード、手描き3の2mAの定電流ダイオードは直列に「+」端子と「G」(グランド:基準電位)の間に配線されていますが、これがバッテリー電圧に影響を受け難い「基準電圧」を生成する回路です。なぜなら手描き3の定電流ダイオードは変動しない2mAの電流を回路全体に流しますが、手描き1のダイオードも手描き2の3.7Vツェナー・ダイオードも流れる電流に両端の電圧は影響を受け難い素子ですので、2重の意味で「基準電圧」として最適なのです。これらのパーツの両端の電圧は手描き1の0.6Vが2つ、手描き2の3.7V、定電流ダイオードは両端は最大定格の範囲で任意ですので、1、2だけを考えればよく、1〜2間の電圧は合計0.6V×2+3.7V=4.9Vになります。この4.9Vが「基準電圧」ということになり、左側の手描き4のトランジスターのベース端子が「+」から4.9V下がった電位に固定されていると見ます。この電位は外部電源としてのバッテリー電圧がいくら変化しても、影響を受けないということを意味します。ご紹介したサイトの図の「内部基準電圧」に相当します。回路図を見る時には、常にトランジスターならB:ベースに、FETならG:ゲートの電位に注目するようにします。もっと正確に言うなら、トランジスターならB:ベース〜E:エミッター間の電圧、FETならG:ゲート〜S:ソース間の電圧です。BやGは入力端子だからです。そして、(増幅度を持つ)出力端子はトランジスターはC:コレクター。FETはD:ドレインです。もっと正確に言うなら、出力はCまたはDに接続された抵抗間に発生します。注目点は入力がB、Gで、出力がC、Dということです。通常、「入力電圧の変化分<出力電圧変化分」です。この比が増幅度。これは前回も触れましたが、この回路では考えなくてもOKです。そして、B、GとC、Dは逆位相。逆位相とはなにか?というと、この場合は基準電位「G」に対して、入力がB、Gの電位が下がれば、出力がC、Dの電位が上がる、またはその逆と言うことですが、その理由は、例えば、手描き4のトランジスターのB:ベース電位が下がる(「+」〜B間の電圧が増えると)と、Vbeは増えます。Vbeが増えると、Icは増えます。IcはC:コレクター〜「G」間の2.2kΩに流れますので、2.2kΩの両端の電圧は増えます。増えるということは、「G」から見るとVc:コレクター電位は上がります。バッテリー電圧はそのままで、B:ベース電位が下がると(Vbeが増えると),基準電位「G」に対するVc:コレクター電位は上がります。逆にVbeが減ると、Vcは下がります。実際の回路の動作の説明に移ります。その前に押さえておかねばならないのは、PVモジュール(太陽電池)からは光量に比例した一定の電流が流れている(定電流動作)ことです。動作の概略は上記のサイトのシャント・レギュレータの動作説明と同じになります。何らかの原因、例えば負荷電流が増えたり、光量が落ちたりして、バッテリー電圧(回路にとっては電源電圧で、「+」端子と「G」の間の電圧)が下がると、100kΩ間の電圧が下がります。同時に、向って右側の手描き4のトランジスターのB:ベース〜「+」間の電圧も下がります。バッテリー電圧は100kΩの可変抵抗器で分圧されているからです。一方、向って左側の手描き4のトランジスターのB:ベース〜「+」間の電圧は変化しません。なぜなら基準電圧4.9Vに常時固定されているからです。「+」に対する向って左側のトランジスターのB:ベース電位は変わらないが、向って右側のトランジスターのB:ベース電位は100kΩの分圧比分だけ下がりますので、その差分だけ、向って右側のトランジスターのIc:コレクター電流は減り、向って左側のトランジスターのIc:コレクター電流は増えます。なぜなら、2つのトランジスターの共通E:エミッターに流れる電流は手描き3の定電流ダイオードで2.0mAに固定されているからです。この2つのトランジスターが構成している回路は差動アンプ、差動増幅器とよばれますが、ここでは解説しません。よく使われる回路なので、検索するといくらでも調べる事ができるからです。また100kΩの分圧抵抗を含む回路をNFB(Negative feedback:負帰還)回路ともよばれますが、これも解説しません。検索してください。これは非常に重要な概念を含む回路ですので、理解される事が電子回路の理解にとっては必須です。誤解を怖れずに簡単に言うと、出力の一部(通常は抵抗等で分圧する)を逆位相にして入力に戻すこと、です。最終的な増幅率は分圧比に収束します。話はそれますが、NFBは自然界に安定的に存在する現象にはかならず組み込まれており、NFBが存在しない系は非常に不安定で、核分裂の様に爆発するか、何も起こらないか、のどちらかになります。地球温暖化がもし正しいのなら、人為的にNFBを破壊した結果かもしれません。NFB・ループから外れた系は必ず暴走して自爆します。さて、向って右側のトランジスターのIc:コレクター電流が減ると、C:コレクター抵抗の両端の電圧は下がり、MOS-FETのVgsが減り、MOS-FETに流れる電流が減り、バッテリー電圧は上昇して設定電圧に収束して安定化します。逆にバッテリー電圧が上がったときは、逆の動作をします。MOS-FETのG:ゲートに付いている100Ωの抵抗器は寄生発振止め、G〜S間の47kΩはGが断線したときにVgsを0Vにして、最大電流が流れないようにするための安全保障の為のパーツで、基本動作には関係ありません。並列制御型充電コントローラの利点は他の方式に比べると、もっとも部品点数が少なく、作るのも容易で、保守も簡単、理解も容易でアマチュアライクな点にあると思います。PVモジュールを増やすことも簡単にでき、その種類、銘柄を混在させることも可能です。この充電コントローラをそれに合わせて並列接続して増やしていくだけです。また、直列制御型充電コントローラに直接接続することも可能なように思いますが、実験していませんので、改めてご報告するつもりです。その技術的なポイントはMOS-FETのD:ドレイン〜「+」に直列に入れてある熱容量の大きな抵抗器にありますので、その解説をして、この記事を終わろうと思います。この抵抗器は3Ω20Wが2直列と3並列接続されており、合成抵抗値は2Ω、W数は2直列の3並列ですので、2×3=6倍の120W。2Ω120Wの抵抗器と等価です。この抵抗器は無くても動作しますが、多数並列接続するときは必要になりますし、最大電流を設定しますので、リスクヘッジに有用です。この最大電流はコントロールするPVモジュールの最大出力電流以上に設定します。この回路図はバッテリー電圧12V用に設計されていますので、2Ωには最大6A(12V/2Ω=6A)流れて、72W(12V×6A=72W、120W>72Wなので放熱的には余裕があります)の損失が発生します。要するに、これ以上電流は流れないので、6Aでこの回路は動作しなくなります。多数並列接続する場合には、低めの電圧設定をしているものから、カットオフしていきますので、トータルでPVモジュールの最大出力電流以上の電流設定をしておけば、システム全体が安定に動作するわけです。まあ、この独立型太陽光発電システムは、その辺りで拾ったジャンク部品で作ることができますので、この技術を手に入れるだけで、近い将来「石油資源がピーク・アウト」しても、電気だけは不自由しなくて済むかもしれませんね。回路図の読み方シリーズは終わりです。このシリーズは全ての電子回路に応用することができる実践的な記事ですので、参考にされて実際に電子回路を作ってみられると電子技術を自分のものにすることができます。電気は目に見えませんので、取っ付き難いだけです。基本的には水の流れと同じように扱えます。最初はテスターやオシロスコープが必要ですが、しばらくやっていると、何も無くても電気が見えるようになってきます。それが「オームの法則を理解して使えるようになった」という状態です。どうぞ、トライしてみてください。次回は実際に作ってみて、調整をどうするのか?の実践編ということになります。