JAZZベーシスト 伝法諭 さんのこと
札幌から戻ってもうすでに5日間も過ぎたが、私の中での札幌充電はいまだ続いている。ブログという形で残しながらだったので、いつもより中身の濃い充電になっている。ありがたいことだ。予約してあって受け取りに行く間がないまま、帰り間際に郵送をお願いしてきたJAZZベーシスト伝法諭(SATOSHI DENPOU)さんのCDが届いた。以前に書いた昔の友の他界後に作られたCDだ。実際には昨日届いていたが、どうしても封を切れなくて、ジャケットを眺めていた。が、パソコンの前にチョコンと置いてある様子はまるで遺影のようだと気づき、あわてて封を切って、まずはパソへ取り込んだ。亡くなったのが2002年だから、録音はその3年前。山下泰司氏とのデュオで1999年の10月、 札幌のライブハウス「JERICHO」でのライブ版である。いつもだと取り込む前に通しで聴くのだが、今回は、まず取り込む。デンポーからのメッセージを受け取っている感覚なので、その間にコーヒーを淹れる。(いつも、カタカナイメージで「デンポー」と呼んでいたので、ここでも以降デンポー)少し涙目になってしまっていた私だが、とりあえず熱いコーヒー片手に、ポチッと再生。いきなり8分余の「Brilliant Corners-Blue Monk」だ。うっ? つなぐのか・・・ピアノの音に、大胆さとは違う雑味が少しある・・・(山下さん、はじめて聴いたのにごめんなさい。解説を読むと、悩みの中にいらした頃だったのですね。)ブリリアント・コーナーズの最後部分ではデンポーお得意のベースでの主旋律。思わず顔がにやけてしまう。あまりにも聴きなれたブルーモンクの主旋律が出てくるあたりでは、私も心持ち、"唄い"ながら聴いてしまっている。ピアノ曲なのにピアノが添え物みたいな言い方になってたいへん申し訳ないが、この、残されたアルバム「伝 DEN It tells. vol.1」がデュオアルバムで、本当に良かった。私のような耳でも、二人だけの演奏なら聴き分けてミックスできる。2曲目の「God Bless the Child」と併せて、最初の2本は若い悩めるピアニストのためにデンポーが選曲したのではないかと思ってしまった。(ビリー・ホリディーのこの曲(GOD Bless' The Child)のできた経緯と詩の内容は充分承知のデンポーなので。)ピアノを見守るようなベースの響きがとても気持ち良い。3曲目から、Eleanor Rigby、Norwegian Wood、In My Life、You've Got to Hide Your Love Away、と、ビートルズの曲が続く。ここではピアノの音が、随分のびのびとして、粒だって来ている。昔(今でもそうなのかも知れないが)、JAZZをやる若い演奏家は、クラシックやロックに対して少し斜に構えたような態度で臨んでいた。だが、ビートルズはやはりちょっと別格。それでも、おおっぴらに「ビートルズ、いいよね!」という人は私の周りにはあまりいなくて、私も、少なくともJAZZを「語る」人達の前では積極的に「ビートルズ、大好き」とは言えないでいた。(考えてみると、あの頃、JAZZは、聴くだけでなく「語る」ものでもあったわけで。。。)でも、いつかデンポーと二人で飲んでいた時、 「実は俺サ、ビートルズ、最高!って思うわけ。すごいよね、アイツ等さぁ。」とサラリと言ってのけた。そのあと、すっかり勢いづいてカミングアウト(笑)した私に対して、もうひとつの「実は、俺・・・」を聞かせた。 「・・・モーツァルト、好きなんだよねっ! あ~ぁ、言っちゃったよ、とうとう。アイネクライネナハトムジークさぁ、あの出だしがどこかで耳に入ると、一緒に歌っちゃってるよ、こっそり。」と指揮棒を振る真似さえしはじめておどけた。明るくて優しくてひたむきな演奏をする人、伝法諭は、無口なベーシストではなく、周りを包み込んでゆく暖かな豊かさがあって、演奏はその人柄のままだ。主旋律をベースで弾くのも大好きだった。このアルバムは、若いピアニストとのデュオということもあって、そんな「伝法諭」があますことなく出ていると感じた。そして、感激的なことに、最後の収録曲は、「Change the World」。ベーシストが作曲した曲で、ベーステクニックを披露できるということもあっての選曲なのだろうが、これこそデンポーのメッセージだ。グラミー賞数部門を受賞している、クラプトンのこの曲の詩は、「人の心や愛が変りゆく常を承知の上で、それでももし僕に世界を変える力があるなら、他人にバカだと思われようとも君のために・・・・・」と、「 男 > 女 」 の愛の力関係のなかでの、夢みがちな切ない男の気持を唄ったものだが、それはそのまま、伝法諭から、JAZZや、周りの自分が愛している家族・友人へ向けた、切ないまでの優しさをこめたメッセージだ、とそう思って聴くと、切ないだけでは決して話をしめくくらないデンポーの、優しさと明るさが改めて思い出される。ライブハウスでの録音なので、途中で電話のコール音やグラスの触れ合う音・小さな咳払いなども聞こえて来て、他にも録音として残念な部分もあるが、それはそれでご愛嬌。むしろ、狭いライブハウス(「JERICHO」へ行ったことがないので実際には狭くないかも・・・)で聴いている感じがリアルに伝わって、私には嬉しかった。今年中にはこのライブの後半を 「 伝 DEN vol.2 (仮称)」として出したいとのことも聞いている。たいへん楽しみ。さらに、アルバム解説者の 関井久夫氏によると、「残された多くのプレイを世に出すチャンスを待っている」とのことなので、今後とも、「office DEN」から目を離せない。私の、こんな辺境ブログであるが、このCDに興味をもった方がいらしたら、ぜひ、私の私書箱(TOPページ右欄下方の[メール]「メッセージを送る」)へ問い合わせいただきたい。往年のJAZZファンはもとより、最近若い人の間でもJAZZは流行っているとのことなので、そんな、JAZZ聞き始めの若い方にもオススメしたいアルバムだ。最後に、アルバムから、ベーシスト「伝法諭」のプロフィールを引き写させてもらう。 伝法 諭 [ DEN It tells. vol.1/ Bass ]1950年 生まれ。札幌出身。19歳で札響の林氏に師事し、コントラバスの基礎を学び、大学在学中はジャズ研に所属。75年 福居良トリオの「シーナリー」でプロデビュー83年 自らのトリオ(P.故岡崎隆哉、Dr.佐々木慶一)結成94年 この年から『DAY BY DAY』を中心に演奏活動を続ける97年 トリオ(P.南山雅樹、Dr.舘山健二)を経て99年 デュオ(P.山下泰司)を結成し、札幌市内ライブハウスで活動ジャンルを超えて数多くのミュージシャンと共演。02年 5月他界。享年52歳。