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カテゴリ:大連の暮らし
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大連の街頭で、インドの「ナン」に似た無発酵パンを売る、新疆ウイグル自治区出身の男性。ずいぶんエキゾチックな顔立ちをしていますが、彼もまた中華人民共和国の国民です。 広大無辺の国土に、13億を超える人間がひしめく国・中国。 国の図体がバカでかい、ということは、もちろん良いこともありますが、反面、「デカさゆえの悩み」も、たくさん抱えています。 つい先日も、安徽省は池州という所で、「大きすぎる中国の苦悩」を象徴するような事件が起こりました。その名も、「池州6・26事件」。 ですが、いきなり事件の話に入っても分かりにくいと思うので、まずは安徽省という地域の特性や社会背景からお話しましょう。 安徽(アンホイ)省は、華中の内陸部にある省です。人口は約7000万人。内陸といっても奥地というほどではなく、上海からの距離も、さほど遠くありません。「黄山」という、中国きっての山岳観光地もこの省内にあります。 いま中国政府は、安徽省やその隣りの江西省のような、「内陸だけど奥地ではない」地域に、非常に注目しています。それは、この地域が、「経済発展著しい豊かな沿海部」と「貧しい内陸部・西部」との間にあって、「沿海部の豊かさを内陸部に橋渡し」する役割を期待されているからです。 では一体、この地域をいかにして経済発展させるか?安徽省の東隣りには、上海に隣接し経済発展著しい江蘇省があります。この省には、外資もたくさん入り込み、ものすごい活況です。ですが、海外資本による投資はせいぜい江蘇省どまり、内陸の安徽省まではなかなかやってきません。 ですので、安徽省あたりの経済発展は、江蘇省をはじめ、国内沿岸部からの投資に頼ることになります。事件の起こった「池州市」でも、ここ数年来、江蘇資本の導入による積極的な発展政策をとってきました。 ですが、ここで問題なのは、「江蘇省と安徽省との経済格差」と、「それに刺激される安徽省人の住民感情」です。安徽省の多くの人間の目には、「お金持ち江蘇省人が、自分たちの土地にやってきて、好き勝手やっている。自分たちには下働きばっかりやらせて、富を独り占めする」みたいに映ることも多く、数字の上では順調に経済発展していても、地元民のフラストレーションはたまる一方、という状況だったそうです。 さて、事件が起こったのは2005年6月26日、新聞報道によれば、4人を乗せた「江蘇ナンバー」のホンダ車が、池州市の路上で、歩行中の地元青年と接触事故を起こし、それをめぐって、運転者と歩行者が口論になりました。ですがこれは、中国ではごくありふれたことで、本来ならニュースにもなりません。 ところが、この口論は殴り合いに発展し、その結果、殴られた地元青年は負傷して病院に運ばれました。で、その最中で、運転者が次のような言葉を口走った(と地元では信じられている)ことが、事件の直接の引き金になったとされます。 「安徽省の人間を一人殺したところで、30万元(390万円)払えば済むことじゃないか?」 人間のウジャウジャいる中国のことです。現場には「やじうま」がどんどん集まり、その結果が、フラストレーションの溜まった住民感情についに火がつきました。池州市の街頭で、あることないこと、いろんな噂が尾ひれをつけて、瞬く間に飛び交いました。 「江蘇省人が、地元の中学生を殴り殺した」 「この暴力行為を支援しているのは、地元のスーパー経営者(※他省資本)だ」 「他省の資本家を、地元の役人と警察が支援している」 などなど。その結果、おびただしい人数が街頭に繰り出し、ホンダ車を焼き払い、スーパーや派出所を襲撃する集団暴力事件に発展しました。暴動は数時間にも及び、当局は700名もの警官隊を現地に派遣して、ようやく事態を沈静化させました。これが、「池州6・26事件」の概要です。 この種の事件は、現在中国の各地で頻繁に起こっているようで、政府も頭を抱えています。沿海部では全世界を引っ張るような経済発展が続いていても、国土が広すぎて内陸部には全く波及しない。その結果、激しい地域格差、貧富格差が生まれ、社会の激変とあいまって、著しいフラストレーションと不公平感を産む。それが、中国各地で一触即発の状態になっているようです。特に今回のように、「金持ちのヨソモノが地元民を殴った」りしたら、なおさらです。 加えて、国土が広すぎるために、地域ごとの文化、生活習慣、気風や価値観の違いも著しい。極端な話、他省の人間はあたかも外国人のような目で見られることも少なくなく、「同じ中国人だから協力しよう」みたいな気分になかなかならない。数年前の話ですが、経済発展著しい広東省の内陸側に隣接する湖南省で、「湖南省工業を広東省製品の流入から守るために」、「地元独自の判断で」、「広東省製品に関税をかける」ということもありました。同じ中国のなかで、これだけ激しい地域対立がある。 ですが逆にいえば、これだけ激しい地域対立があっても、「中華世界」というでっかい世界が、それらの矛盾を全部包容してしまって、一つの国家でいられるというのも、すごいことだと思いますが・・・ 思うに、今回事件の起こった安徽省のような地域が、沿海部の経済発展を引き継いでいけるか、それが、将来中国が経済超大国になれるかどうかの、試金石だろうと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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