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カテゴリ:国漢文
【本文】修理(すり)の君に右馬(むま)の頭(かみ)すみける時、「かたのふたがりければ、方違(かたたがへ)にまかるとてなむえ参りこぬ」といへりければ、
これならぬことをもおほくたがふればうらみむ方もなきぞわびしき 【注】 ・修理の君=父兄が修理職(皇居の修理・造営をつかさどる役所)の役人だった女房。 ・右馬の頭=右馬寮(御所の厩や諸国の朝廷用牧場を管理する役所)の長官。 ・ふたがる=陰陽道で大将軍や天一神(なかがみ)のいる方角にあたる。大将軍は、八将軍の一。その神のいる方角は三年ごとに変わり、その方角は塞がるといい、忌むべき方角とされた。天一神は、吉凶禍福を支配する神。天上に十六日間いて、そののち東北・東・東南・南・南西・西・西北・北と時計回りに巡行し、四十四日後に再び天上にもどるという。この間、東・西・南・北に各五日ずつ、その中間に六日ずつ滞在する。この神のいる方角を「ふさがり」といい、その方角に向かって何かをすることを嫌う。 ・方違へ=陰陽道で「ふさがり」の方向に外出するとき、前夜に他の方角の所で一泊して、方角を変えてから翌日あらためて出かけること。 【訳】修理の君の所に、右馬の頭が夫として通って暮らしていた時分、「そちちらは不吉な方角になったので、よそに方たがえに行くので今日は行けないよ」と言ったところ、「かたふたがりでなくったって、あなたはしょっちゅう約束をやぶるから、恨もうという方角も無い(今さらもう誰を恨もうなんていう相手もいない)のがつらい」 という歌を修理の君が作ったとさ。 【本文】かくて右馬の頭行かずなりにけるころ、よみてをこせたりける、 いかでなほ網代の氷魚(ひを)にこととはむ何によりてか我をとはぬと といへりければ、かへし、 網代よりほかには氷魚のよるものか知らずはうぢの人にとへかし 【注】 ・網代=冬に氷魚などを捕るために川の瀬などに仕掛ける、竹や木を編んで連ね、端に簀を付けた漁具。 ・氷魚=アユの幼魚。 【訳】こうして、右馬の頭が修理の君の所へ結局いかずじまいになってしまったころ、作った歌、 そうはいうものの、なんとかして網代にひっかかった氷魚に聞いてみよう「なにが原因でわたしの所を訪ねないのか」と。 と歌を作ったので、その返歌に、 網代以外に氷魚が寄りついたりするものか、知らないのなら宇治の里人に聞いてごらんなさいよ。 と右馬の頭が作ったとさ。 【本文】又同じ女にかよひける時、つとめてよみたりける、 あけぬとていそぎもぞする逢坂の霧たちぬとも人にきかすな 【注】 ・逢坂=山城(京都)と近江(滋賀)の境の逢坂山。歌枕として恋人に「逢ふ」意に掛けて用いられることが多かった。 【訳】また、同じ女の家に通っていた時分に、早朝に作った歌 夜が明けてしまうといって、帰りを急ぐと困る、たとい逢坂山の霧か立ちこめたとしても、あの人に聞かせないで。 【本文】男はじめのころよんだりける歌 いかにして我は消えなむ白露のかへりて後のものはおもはじ かへし、 かきほなる君が朝顏みてしがな返て後はものや思ふと 【訳】男が付き合いはじめて初期のころに作った歌 どうやって私はこの世から白露のように消えてしまおうかしら。どうせ、冷たいあなたは帰宅したら私のことなんかつゆほども考えないのでしょう。 女の返歌、 垣根にある朝顔ならぬあなたの朝の顔を見たいものだわ。帰宅したあとは、私のことを考えながら物思いにふけっているかしらと。 【本文】おなじ女にけぢかく物などいひて、かへりてのちによみてやりける、 心をし君にとどめて来にしかば物思ふことは我にやあるらん 【注】 ・けぢかし=近い。(岩波日本古典文学大系)に「けぢかく物などいひて」を「契りを交わして」とするのは、男女は結婚するまでは、几帳や屏風といった家具などの物越しに話をするのが普通だったから。 【訳】同じ女に、間近で話などして、帰ってのちに作って贈った歌、 私の心をあなたの所に置いて来てしまったので、物思いにふけるのは私だろうか、いや、あなたのほうですよ。 【本文】かへし、 たましひはをかしきこともなかりけりよろづの物はからにぞありける 【注】 ・から=肉体。「たましひ(魂)」の縁語。「空(から)」との掛詞。 【訳】女の返歌、 あなたが私の所に置いてきたという魂は、面白味も無かったですわ。どれもこれも中身のない誠実さのないものばかりでしたわ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
January 16, 2011 08:31:40 PM
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