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台湾役者日記

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2005年06月02日
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カテゴリ:創作物件
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 まずは寝室。今いるこの部屋から手をつけようと思い立った。もとよりそれほどたくさんの持ち物があるわけではない。部屋の片隅にいくつかの――。

 いくつかの、いくつかの、と念じてみたがその先がどうしても思い浮かばない。寝室はそこで一日を過ごしても窮屈に感じることがないほどには広いが、それでもベッドの縁に座っていて部屋の隅を見通せないなどということはない。今もこうして視線を左右に泳がせているのだが、眼に映るのは、漆喰の天井と漆喰の壁、塵屑のような貝殻が埋め込まれた漆喰の床、そしてそれらの平面がそれぞれ直角にぶつかって生じた隅、隅、隅、隅と角、角、角、角。あとは玄関の方へ抜ける出口。それに白いブロードのカーテンが潮風にはためいている背の高い窓。それだけだ。この部屋には、カーテンとベッドのほかには、調度と呼べるようなものは何ひとつなくて、それどころか、わたしがたしかにどこかから持ち込んだはずの物が何ひとつ置かれていない。

 冗談ではないぞ、という感じがしきりにする。何か記憶がどこかから先の方でぶっつりと切断され持ち去られてしまっているかのような、得体の知れない冷ややかさのようなものが背中のすぐそばの空中に漂いながらこちらの様子を窺っているような気がする。

 女が持ち去ったのか。でも、何のために。いや、その前に、女が持ち去ったとして、それはいったい何を持ち去ったのか。物か、記憶か、それとも、全部か。気がつかないうちにベッドから立ち上がって足を二、三歩踏み出していた。


(つづく)


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Last updated  2005年06月06日 02時27分02秒
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