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台湾役者日記

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2005年07月22日
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カテゴリ:創作物件
(1) Previous

 床の上を走っている直線には幅というものがほとんど認められなかった。それほど細い。これが床下収納庫の蓋の輪郭線あるいは収納庫の用をなす穴の縁であるとして(すでにわたしの「確信」は「仮説」の位置にまで「後退」していた)、髪の毛くらいの幅しかないこんな隙間では、どれほど鋭利な刃物を当ててみてもこじ開けることはできそうになかった。蓋には――仮に蓋であるとすればだが――取っ手が付いていないはずがない。

 直線に囲まれた矩形の内部にも貝殻は埋め込まれている。どの貝殻も埋め込まれた後で床の中から研ぎだされたように磨かれており、表面には炭酸カルシウム結晶の細かい粒子からなる白い断面図だけが現れていた。つまり、サクラガイかと見える小さくて殻の薄い二枚貝の場合には、ほのかな湾曲を見せる痩せた三日月形、と言うか、切られて床に飛ばされた親指の爪、というふうな形容をした方がいっそうふさわしいような形を見せており、大振りの円錐形をしたオキナエビスのような巻貝だと、黄金比にしたがって次第に巻きを緩めていく貝殻内部の構造がはっきりと分かるような断面が二次元的に描き出されているのである。サクラガイで言うと三日月形ないし爪形の弧の内部には床――あるいは蓋――の漆喰が隙間なく侵入しているし、オキナエビスの場合には貝殻内部の空間に当たる部分が同じように漆喰で満たされている。床をこのように作るには、まず貝殻それぞれの内部空間を床と同じ漆喰で塞ぎ、体内に漆喰を抱えたその貝殻を床上に撒いて、さらに、それを十分に埋め込む高さにまで床全体を漆喰で搗き固め、最後に床を、貝殻もろとも、現在の高さのところまで研ぎ出さなければならない。そのように作ったのでなければ、この床表面の貝殻断面図は説明できない。その工法の異様さに思い至って、息が詰まりそうになりながら改めて床上の貝殻の散らばりを眺め渡しているうちに、わたしは、さらに異様な事態が眼前に展開していることに気がついた。


(つづく)



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改稿:2005年8月2日夜






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Last updated  2005年08月03日 02時31分58秒
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