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身体・感覚とアート

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2006年10月04日
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カテゴリ:捕虜体験記より
「軍医殿、これはいけません、子宮がすっかり弛緩してしまっています。

不通なら駐車で収縮を起こさせるんですが、薬がありませんから、しばらくマッサージをやってみましょう。

ちょっと時間はかかるでしょうが、大丈夫、収縮は起こるでしょう。」
 
私は彼の言うままに腹部の診察をし、子宮の弛緩した感触を確かめ、また彼の指示に従って、交替でしばらくマッサージを続けた。

かれこれ小一時間もたっただろうか、

「もう大丈夫です、軍医殿」

という彼の声で最後の処置を彼にゆだねると、ちょうど時満ちた感じで、呟く(つぶやく)ような彼の小さな掛け声といっしょに、それまで10時間も渋っていた胎盤がさっと引き出された。

それは長く続いた重苦しい緊張の後の、あふれ出るような興奮の一瞬であった。このとき私は荻野衛生兵になんと言ったのか、覚えていない。
 
「ありがとう!よかったね!」でも「万歳!万歳!」でも、とにかく躍り上がって喜びたい気持ちであった。

ロシア語には、「モロジェッツ!(うい奴)」という言葉があるが、これもこうした感情の表現であろう。
 
(略)
野口氏に聞くと、こうであった。

なかなか後産が出て来ないということになって、その夫(彼は鉄道の資材を運ぶトラックの運転手として、しばらくこの駅に住むことになっていた)の心配はもちろんだが、

後の処置を日本人の捕虜の医師に任せてよいかどうかということでは、たいへんな議論があったのだそうである。

子どもを取り上げた看護婦は大反対で、結局、自分ではなにもできずに何時間も待った挙句に、テルマから医者を呼んで来るといって出て行ってしまった、

それも日本人の捕虜には絶対にやらせるなと言い置いたままで。

 それにはげしく反対して、

「捕虜だからといって、いったい日本人のどこが悪いのか、みな実に熱心に陰日向(かげひなた)なく忠実に作業もやっているではないか。

ロシア人のほうこそ見習うといいのだ。

いま、このままで来る当てもない医者を待っても、もしものことがあったらどうするのか。

あとでなにか問題が起こったら、私が責任を持つから、思いきって収容所に言って頼んでいらっしゃい」

と産婦の夫を励まして出してやったのが、駅長夫人だった。

引用:『捕虜体験記1 P273~275安藝基雄氏回想 ソ連における日本人捕虜の生活体験を記録する会 編集・発行』





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最終更新日  2006年10月04日 08時27分30秒
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