検死と検診( ^)o(^ )
60歳で外科医を引退して、現在の仕事は不定期の仕事ばかりですが、競艇場医務室の仕事の他に検死と検診をしています。検死の方は、愛知県医師会警察部会の副部長をしていて、県警本部長から検視立会医の嘱託を受けています。検視と言うのは警察が扱う異常死体を県警本部の検視官または所轄署の刑事課警察官が調べて事件性があるかないかを調べることで、医師がそれに立ち会って検死をして死因、死亡時刻などを推定し、検案書を書きます。検案書がないと、遺体を動かすことも埋葬することも出来ませんので、警察は立ち会ってくれる医師を探しますが、普通に医療に携わる医師は生きている人を見るのに忙しくてなかなか検視立会に応じてくれません。東京都では監察医務院があって異常死体はそこですべて検案していますので、一般の医師が検案に呼ばれることがありませんが、その他の道府県では専門にそれだけしている医師はいませんので、警察が一生懸命探します。私は蒲郡警察署の警察医を10年ほどしている間に検案の勉強をして、日本法医学会に入会し、東京都監察医務院や大阪府監察医務院へも見学に行き、死体検案認定医の資格も取り、日本警察医会総会でも10回以上の発表をしています。蒲郡市民病院、碧南市民病院、岡崎市医師会、西三医学会などで検死検案についての講演もしました。最近では地元の警察の信望も厚く、検視立会医に困るとすぐに電話がかかってきます。24時間いつ要請があるか判りませんが、1時間以内に行ける場合は断らずに受けています。今年に入って31件、1日1件のペースです。主に知多、半田、碧南、蒲郡の警察からの依頼ですが、最近では安城や豊川からも呼ばれることがあります。それでは検案の実際の手順について説明します。警察に呼ばれて現場あるいは警察署へ行き、(昼間は自分の車で行きますが、夜は飲んでいることが多いのでパトカーに迎えに来てもらいます。最近は自分の車で行った場合警察から距離数に応じて交通費、高速を使った場合は高速料金も支給されます。)まず刑事課の担当の方から発見された状況や周辺の状況を聞きます。まず死者が誰で最終生存確認がいつかを聞きます。時に身元不明とか、腐敗がひどいとか、火事で黒焦げになっているとかで本人確認が出来ない場合があります。そのような場合は氏名不詳で書くか、そこに居住していた人として書き、DNAや歯型で本人確認が取れてから遺族に検案書を渡すかします。生年月日は免許証とか保険証で確認して書きます。次にご遺体の検死に移りますが、まず合掌一礼して死者への尊厳を失わないようにします。そして最初に行うのは死亡日時の推定です。死体の経時的な死後変化(体温の変化、死後硬直、死斑の状態、腐敗、乾燥、蛆の成長など)についての知識が必要となりますが、これは外界の状況により変わりますので、少なくとも最初に聞いた最終生存確認日時よりは後にしなければなりません。私が行く前に検視官がおおよその推定日時を割り出している場合が多いのでそれも参考にします。死後経過時間が長くなるほど推定日時の幅も大きくなります。よく科捜研の女などを見ていると榊真理子(沢口靖子)さんが死亡推定時刻は昨日の午後9時から11時頃ねなどと言っていますが、それほどはっきりと決められるものではありません。次に一番重要なのは死因の推定です。まず病死か外因死かを判断するために、外表に死因に結び付くような外傷がないかどうかを見ます。首吊り自殺などの場合その前にリストカットしていることもあるので、手首は必ず見ます。内因死と思われる場合は既往歴や飲んでいる薬も参考になりますので、警察の方に訊きます。新鮮なご遺体で病死だと思われる場合は最近では警察が血液採取、髄液採取を要求することが多いです。10年ほど前に法律の改正があり、警察署長の許可で死体の簡単な検査をすることが出来るようになりましたが、血液・髄液採取は医者しかすることが出来ません。採尿は司法警察官でもすることが出来、着いた時点で尿の薬物検査はすでに済んでいることが多いです。血液はアルコールやCO濃度測定にも使われることがありますが、通常行うのは心筋トロポニンTと言う心筋梗塞などで心筋が壊れると血液中に出て来る物質の定性検査をするためです。簡単には心臓穿刺をして採るのですが、心マッサージをしている場合など偽陽性に出ることもあり、また心臓穿刺だと穿刺する時に心筋を通すので、そこでトロポニンTが混ざる可能性もあり、末梢血でと指定される場合もあります。そんな時には鎖骨下穿刺をして中心静脈から採りますが、頚静脈が怒張していない場合なかなか採れないこともあります。髄液採取は医療場面では腰椎穿刺で採ることが多いのですが死後硬直で体位が取れないので通常は後頭下穿刺で採ります。この場合ご遺体を横向きにしないといけないのと、クモ膜下腔へ入る前に静脈叢に当たって血液が引けることがあり、血性髄液と誤診することがあります。最近側頭穿刺(耳の後ろの乳様突起から1㎝後ろ、1㎝尾側から真横に穿刺する)をまず試みるようにしています。髄液も清明、心筋トロポニンTも陰性の場合(もちろんそれで死因から頭と心臓が全て除外される訳ではありませんが)、不詳の内因とすることもあります。死因の欄の下には死因の種類の欄がありますが、内因死は1番の病死及び自然死に〇を付けます。外因死の場合は自殺、他殺、事故死の区別(事故死の場合は交通事故死、転落死、溺死、中毒死、煙・火災・火焔による障害などを区別)して、どれかひとつに〇を付けます。白骨化死体など死因の推定が困難な場合は12番の不詳の死に〇を付けます。他殺は滅多にお目にかかりませんが、自殺は首吊りのようなはっきりしたものはよいのですが、水死体や轢死体などでは判断に迷うことがあり、後で保険金がらみで遺族からクレームがつくことがありますので、警察からはっきりした遺書が残っているなどの情報を得た場合だけにしています。外因死の場合は下にある外因死の追加事項の欄も記入します。以上のような検案書をその場で作成して(私は印刷屋に頼んで複写式の検案書用紙を作ってもらっています)、遺族がいる場合は検案結果の説明をしてその場で検案書と検案料の振り込み先そしてもし別の書類が必要になった場合のために私の連絡先を書いた紙を渡して来ます。このやり方は東京都監察医務院で行っているやり方に習ったもので遺族も後で病院や診療所へ取りに来る手間がなく、警察もすぐにコピーがもらえるので、好評です。