東あずまを惨めにハシゴ
東あずまっていう駅をご存知でしょうか? 曳舟駅と亀戸駅までのわずか5駅だけの東武亀戸線という小さな路線にある駅で、路線距離はわずか3.4km、2両編成のワンマン列車が路面電車のような平坦な線路を往復しています。その気になれば歩くことだってぜんぜん大変というような距離ではありませんが、今では廃駅となった駅が4つもあったということを知ると、昔の人はよく歩いたというけれどホントかなあなんて疑問を抱かざるを得ません。ごく一部を除いては複線化されていて、頻繁に列車が行き交っています。今回訪れた東あずま駅はそんな亀戸と曳舟からもさほど遠からぬちょうど真ん中に位置します。 さて、例のごとくに職場の同僚の車で東あずま駅のそばに落としてもらい、さてどこに呑みに行こうかとうきうき歩き出します。ふと不安になって財布を開くとなんともかなしいことに残金は3,000円を切ってしまっています。クレジットもキャッシングのカードも日頃から不注意で何度かミスを犯したことがあるので、今ではよほどのことがない限りは持ち歩かないようにしているのです。まあそんなことはどうでもよくって、さてこれだけの現金でもせっかくここまで来たのだから一杯呑まずには帰れません。 駅のすぐそばには全1,589戸という大きな立花団地があって、その道路面にあるグルメシティに併設の飲食店街があります。団地商店街の風情が好きなので以前からチェックしており、居酒屋もあるのですが財布事情が上述の通りなのでありふれた町場の中華料理店に入ることにしました。「ラーメン大学 立花店」というお店で、チェーン店らしいのですが、この界隈に密着した風の枯れた食堂風なのが悪くありません。ガラス越しに店内が丸見えなので一応お値段もチェックできて好都合。そこそこ客が入っていますがそこそこ広いお店なのでひとりで4人掛けテーブルを独占です。新聞を手にしてのんびり熱燗をすすります。目の前のテーブルに着いた中国の方らしい娘さん、席に着くや興奮した表情でメニューを穴の開くほどにチェックして、マーボー丼大盛りやら餃子やらあと数品を一気に注文すると到着した皿から一気に掻き込んでいきます。三角食べ(順番にバランスよく食べる食べ方があるようです)なんていう軟弱さなどとはまるで無縁にとにかくその皿を平らげると次の皿という、貧しい酒呑みには目の毒ともなる迫力で、見るまいと思ってもついつい目線はそちらに向いてしまいます。時折、おいしいねやらうれしいねなんて言葉を発していて、その度に見入ってしまいます。途中、目がばっちりと合ってしまい、まずいと思うものの、彼女は胃に買いする風もなくニヤリと笑うとまた何事もなかったかのように掻き込み始めます。ふと気付くと彼女は店をつむじ風が吹くようにさっと通り過ぎ、後に残されたぼくは彼女の半額にも満たない金額しか消費していないことに気づかされ、激しい羞恥に駆られ店を後にするのでした。品書:ビール中:440,酒1合:350,缶酎ハイ:400,餃子:260,味付け煮玉子:200,メンマ小皿/ザーサイ小皿:220,野菜イタメ:470,東京ラーメン:540 そんな羞恥心などまだまだ酔わぬ身にとっては寒風とともにあっという間に吹き消され、次なる安酒場を求めるのでした。東あづま本通り会を進むとやがて「たか尾」なる安普請な酒場に興味が掻き立てられるのでした。引き戸を開くとそこは近隣(明らかに近隣とわかる、なぜなら厚手のジャンパーはともかく、足元はおおむね素足につっかけ姿)のじいさまたちがカウンターにずらり。店のママさんは年増のどこかしら気位の高そうな女王様タイプ。これはもしや若かりし頃は近隣のマドンナであったのかと想像をたくましくするものの想像の芽は芽吹くことなく家運t-の片隅でしおれてしまうのでした。それにしてもじいさまたちの元気なこと。しかも旺盛なる食欲でオーダーの声が次々に上がります。負けじと注文するもののあな寂しや頼むのは1杯の酒ともつ焼数串のみ。威勢のいいママさんも一見のぼくにはいくらかテンション抑え気味の丁寧な対応。さすがにひとりしょんぼり酒を呑む客にはそれなりの気遣いがあるのでしょうか。しょんぼりしている理由をいかに解釈されたかは常連組の圧倒的なしゃべくりに混じることもできず、もとより交わっても財布がからけしだなんてことは言えるはずもないので(時には正直告白の作戦に出ることもある)、寡黙な男を演じてみるばかりなのでした。味も値段も書くべ鵜t語るべきことはありませんが、もしかするとこのママさんにはオヤジ心をくすぐるなにものかが備わっているのかもしれません。まだまだオヤジになりきれぬ身としてはいましばらく時を置いて訪れる機会を窺うべきなのかもしれません。