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カテゴリ:外来診療一般
私がまだ大学病院で眼科の研修医をしていた頃のお話です。
ある時、我々ピヨピヨの研修医がその自己紹介も兼ねて、地元のベテランの眼科開業医の先生方と飲むと言う貴重な機会がありました。
当時の私はまだ自分で白内障手術もしたことがありませんでしたし、臨床の経験も本当に未熟でした。関連病院にアルバイトに出かけると、患者様の病状が見たこともないものばかりで全身フリーズし、「これって一人前になれる日って本当に来るのかなあ?」と疑問を感じるほどでした。
さてそんなヒヨヒヨの私は、飲み会で上品な女医さんの隣に座りました。色々としゃべった後でふと私が、「先生、開業すると勤務医とは何か違うことってあるんですか?」と質問をすると、その先生がしばらく考えた後で、
「そうねえ、 開業するとまつげを抜く機会が凄く増えるわよ。 」
と仰いました。
私はそれまで患者様のまつ毛を抜いたことがなかったので、物凄く驚き、思わず、
「先生、世の中にそんなお仕事があるんですか?」
と質問してしまいました。
するとその女医さんがクスッと笑いながら、「あなたも、いつか分かるわよ。」と可笑しそうに言われました。
それから長い月日が流れました。私は開業して6年目に入りましたが、その先生の予言通り熱心に患者様の逆まつ毛を抜く毎日です。
「まつげを抜くお仕事」は、本当にこの世の中に存在した
のですね。(笑)
それでは、どうしてこのような奇天烈なお仕事が世の中にあるのでしょうか?
それはだれでも年を取ると、目の周りの筋肉や組織が弱くなって、若い頃にはピンと外側を向いていたまつ毛が段々と内側に向いて目に当たるようになってしまうからです。そして当ったままだと角膜(黒目)に傷が付いてしまって様々なトラブルを引き起こす原因となります。
そしてこの「逆まつげ」は、その成因に合わせ、最適な手術法を取ることによって治すことが可能なのですが、手術後であっても数年後には少し戻りが出てやっぱり何本かのまつ毛が黒目に当たってしまうこともありますし、そもそも手術をするのはイヤなので来院した時に抜いて貰えばそれでいい、という患者様もいらっしゃいます。
そんなこんなで、眼科開業医の毎日にはこの「まつげを抜くお仕事」が、「切っても切れない不思議なメニュー」として存在しているんですね。
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最終更新日
2014.07.27 09:39:03
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