カテゴリ:本の感想(さ行の作家)
島田荘司『御手洗潔のメロディ』 ~講談社~ 「IgE」声楽家、秦野大造が御手洗のもとへきた。彼のレッスンを受けにきた女性-彼女は毎日レッスンに来ると約束しておきながら、三日目に電話をよこして以来、レッスンに来なくなった。マンションも引っ越したようだった。また、後日、謎の電話もかけてきた。秦野は、彼女に会いたいという。同じ頃、Sというファミリーレストランで、男子トイレの子供用便器が壊されるという事件が繰り返し起こっていた。 「SIVAD SELIM」1990年12月23日。高校生の依頼で、石岡は身体障害をもつ外国人高校生向けのコンサートに参加した。高校生は、御手洗の演奏を聴きたいというのだが、御手洗にはその日、先約があった。 「ボストン幽霊絵画事件」自動車修理工場の看板に12発の弾丸が撃ち込まれた。一カ所が集中して撃たれていた。銃は、向かいのビルから撃たれたらしい。御手洗はこの事件の裏に、殺人事件があると推理する。 「さらば遠い輝き」10年前、松崎レオナと会って以来、彼女のファンだったライター、ハインリッヒ・フォン・レーンドルフ・シュタインオルトは、スウェーデンに来た御手洗と親しくなっていた。彼のもとに、レオナから電話があった。二人は、ロサンゼルスで再会をはたす。 再読です。 ミステリと呼べるのは、「IgE」と「ボストン幽霊絵画事件」。 前者は、キーワードをはっきり覚えていましたが、それでも、筋は忘れていて(便器が壊される理由など)、十分に楽しめました。後者は、まったく内容を覚えていませんでした。はっきりとページが割かれているわけではありませんが、こちらには「読者への挑戦」ととれる記述があります。考えることなく読み進めましたが。私はそういう読者なんです。 「SIVAD SELIM」、これは、仕掛けというかなんというか、いろんなことを覚えていました。筋は忘れていましたが、なんとなく話のオチは見えるというものです。きっとこうなるだろう、そう思って読み進めたのですが-そしてその通りになるのですが-、それでも感動しました。御手洗さん、本当にかっこいいです。 そして、最後に収録された、「さらば遠い輝き」。正直、レオナさんの事情などには、興味はありませんでした(『暗闇坂の人喰いの木』や『アトポス』を再読すれば、もう少し興味を持てたでしょうが)。でも、読みました。ハインリッヒは、『ネジ式ザゼツキー』にも登場しています。スウェーデンでの、石岡くん的なポジションでしょうか(石岡さんより、しっかりした感じがしますが)。『御手洗潔のダンス』を再読して感想を紹介しましたが、そのとき、「近況報告」は読みませんでした。この短編も、別に読まなくてもいいかな、と思ったのですが、せっかくなので読みました。で。読んで良かったです。たとえばそれは、先日『異邦の騎士』を読み返したことも関わるのかも知れません。まったく別の時期にこの作品を読んでも、あるいはそれほど感動はなかったかも知れません。でも、泣いてしまいました。ああ、あのとき、御手洗さんはこう感じていたのか、と。それは、「俺」あるいは「私」による一人称からも、うかがえることはできたのですが、御手洗さんが言っていた、となると、余計に感慨深いものがあります。そして、そこに絡んでくるレオナさんの思い。 というんで、乱暴に分類すれば、ミステリと、感動的なエピソードが二編ずつ収められた短編集です。ミステリの方には言及が少なかったので、付記をば。 いずれも、上の内容紹介よりも後の展開が断然面白いです。「ボストン~」など特に。でも、後半のこの感想からもうかがえると思いますが、私には感動的なエピソード二編の方が、印象的でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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