カテゴリ:本の感想(ま行の作家)
舞城王太郎『阿修羅ガール』 ~新潮文庫~ 「阿修羅ガール」 アイコが佐野とSEXして、腹をたてて彼をホテルに放って帰宅した翌日、彼女は友達からトイレに呼び出された。そこで、佐野が行方不明になったことを聞いた。女子トイレのさわぎが大きくなってきたとき、好意を寄せていた金田がその場をおさめてくれた。金田によれば、佐野の足の指が、佐野の家に届けられたという。 その少し前、グルグル魔人と名乗る何者かが、三つ子を殺してバラバラにしていた。その事件の影響を受け、<天の声>という掲示板が中高生を扇動し、そして「アルマゲドン」が起きる。無差別に中学生を殴る集団、その集団に反対する集団…。騒ぎの中、アイコも被害にあう。そして生死の間をさまよい、自分なりの答えを見つけ、生きていく。 「川を泳いで渡る蛇」 作家である直樹が栄美子を待っていると兄から電話があった。母とけんかしたため、母が直樹のもとへ向かっているかもしれないという。一方、栄美子は電車を乗り過ごしたと、直樹に連絡をよこす。いままでも、よくあったことだった。川を泳いで渡る蛇。僕はその光景を思い出し、神について考え…いつもと変わった行動を試す。 表題作は、文庫版で再読。後者の短編は、文庫版に初収録。だから、文庫版も買ったのですが…。 まずは、「阿修羅ガール」から。 アグレッシヴでたたみかけるような文体で、アイコさんの考えがどんどんこちらに訴えてくるのですが、第一部と第三部では、一気に性格が変わっています。汚い言葉も連発されますし、事件も痛いのですが、そのぐちゃぐちゃで醜悪な世界が、ふっ、と―許される、というか、受け入れられるのです。私にはグルグル魔人の思考は理解できないですし、アイコさんの思考にも共感しかねる部分はあるのですが… たぶん前者も理解したくないというのが正直なところですし、後者も、共感する部分はあるけれど、そこまでは私は考えられない、ということです。 我思う、ゆえに我あり。このことについてのアイコさんの考えにはとても共感できました。考えすぎると壊れてしまいそうなので、どこかストッパーがはたらいていますが。 第二部はずいぶんぐちゃぐちゃで、それは比喩に満ちているせいもあるのですが、比喩の意味についても、アイコさん自身が考え、読んでいて、ずいぶん分かりやすくなります。似たようなことは私も考えていましたし、考えていることなのですが、このように物語にして伝えてもらえると、自分の考え方をあらためて見つめなおす機会になります。 <天の声>は、やはり怖いです。インターネットが普及しすぎた現在、たしかにその弊害はあるのでしょう。ブログを通じて、いろんな方と交流がとれていろんな方の価値観にふれることができ、勉強になりますし、また本の注文など、実生活にとってもネットは便利なのですが…。 「川を泳いで渡る蛇」。「阿修羅ガール」よりは、雰囲気がとっつきやすかったです非現実的な事件が起こるわけでもなく、ぐちゃぐちゃの世界も描かれません。それこそ日常の一コマですが、直樹さんが蛇からふくらませていく考えは、読んでいて興味深かったです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005.09.17 21:58:58
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