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2005.11.22
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凍りのくじら
辻村深月『凍りのくじら』
~講談社ノベルス~

 その頃、芹沢理帆子は高校生だった。
 幼い頃から多くの本を読み、自分のまわりの人々を見下すようになっていた。自分も他人も客観的に分析、他人と適度に距離をおき、自分がその人たちとは「違う」ことを隠す。それでいながら(それだからこそ)、自分自身の抱える矛盾も感じている。
 彼女は、弁護士を目指す男、若尾と別れたところだった。彼を理帆子に紹介していたカオリは、責任を感じてか、新しい男を彼女に紹介していた。その人や、カオリ、タメの美代たちと、適当にバカなふりをしながら過ごす理帆子。家庭の事情も彼らに告げないまま。
 母親は入院。死は目前にせまっているはずだが、理帆子は具体的なことは何も知らされていなかった。
 そんな頃出会った一人の男-別所。理帆子の写真を撮りたい、そう彼は言ってきた。
 他人に自分のことをほとんど話さない理帆子だが、彼にはいろいろと話せるようになる。ときを同じくして、郵便受けに入れられるようになるディスカウントショップの袋。電話やメールをしてくる別所。世間では地下鉄火事事件が起き、東京湾にくじらが現れては死んだ。
 理帆子に「暗い海の底や、遥か空の彼方の宇宙を照らす」光が当てられることになる一連の出来事は、そして始まる。

 読んでいる間中、感情が揺さぶられました。正直途中で何度も読むのをやめたいとも思いました。それは決して本書が面白くないからではなく、あまりにも考えさせられすぎるから。
 理帆子さんは、少年を「鏡」にたとえていますが、本も一種の「鏡」ではないでしょうか。読むときどき、精神状態、それまでに経験したことは変わっていて、そのときごとの自分の考え方に即しながら読んでいきます。なんだか似たようなことは他の本の紹介でも書いたと思いますが…。つまり、読書体験はそのときどきの自分を反映していると思うのです。
 理屈ばかりたって、他人を見下し、距離を置く。他人や自分に、「少し・ナントカ」とレッテルをはりながら。でも、人とのつながりは失いたくない。矛盾の中に苦しむ(自覚しながらあらためようとしていないわけですが)理帆子さん。「少し・腐敗」から、完全に腐っていく若尾。ニュートラルで、理帆子さんも話がしやすい別所さん。姉御肌のカオリさん。友達思いの美代さん。なんというか、生きているなぁ、と感じたのです。
   *
 さて、テンションをあらためましょう。上のままだとぐずぐず話が進みません(逆にいえば、本気で誰かと話したい部分なのですが)。
 本書はそれぞれの章題からもうかがえるとおり、『ドラえもん』の話題に満ちています。そこにある哲学。そこで説かれている道徳は、のび太くんを信じた上で成り立っている、という説明には関心しました。「どくさいスイッチ」などの道具について、特に。
「さようならドラえもん」のことも紹介されていました。私も読むたびに泣いていたものです。タイトルは忘れてしまいましたが、その次のお話(コミック7巻の1話目と記憶しています。「さようならドラえもん」は6巻の最後に収録されていたはずです)も、泣いたものですが。安直なようですが、本書を読んでみて、あらためて『ドラえもん』を読み返したいなぁ、と思いました。一時期漫画を処分してしまったので…もったいないことをしたものです。そう思い始めて以来、本は買って手放さない主義になってしまったので、スペースが…。
   *
 登場人物の話に戻りますと、多恵さんという方が登場するのですが、素敵な方だなぁ、と感じました。さばさばしていて、思いやりがあって。多恵さんと理帆子さんが話をするようになるまで、若尾さんのことやら人間関係での矛盾に苦しむ理帆子さんの心情描写で相当重い雰囲気になっていたので、ほっとした、というのが大きな要因だと思うのですが。
   *
 ミステリーとしての要素もあります。背表紙の内容紹介にも、「物語」に「ミステリー」とルビがふってあります。あえてこうしたのは、ミステリーという枠にわざわざ収める必要がないからだと感じたのですが、そのミステリー的な要素のおかげで、少し救われた部分もあります。ちょっとひっかかるところがあったり、なにぶん相当数のミステリを読んできていますので、「ひょっとしたらこういう話になるのでは」と予感しながら読んだりで、おかげでこの感想部分の最初に書いたように感情が揺さぶられはしたものの、つぶされまではしなかった面もあるかな、と(つぶされるというと大げさかもしれませんが、今の私にはそのくらいのインパクトがありました)。
 ちょっと関連したこととして、理帆子さんが現実に対する距離感が薄い分、フィクションに対する思い入れが強い、というところがあります。火事の話のところで。ここで、辻村さんの前作『子どもたちは夜と遊ぶ』を連想しました。その中の月子さんも、テレビなどのニュースで大きく動揺していたような、と。
 また長くなってしまいました…。



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Last updated  2005.11.22 21:18:28
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