カテゴリ:本の感想(海外の作家)
ポー『モルグ街の殺人事件』
(Edgar Allan Poe, The Murders in the Rue Morgue) ~新潮文庫、1951年(1998年、78刷)~ 最初の推理小説といろんなところで評価されている、ポーの「モルグ街の殺人事件」を含む五つの短編が収録された短編集です。以下、各々について内容紹介と感想を。 「モルグ街の殺人事件」19世紀、フランス。「私」は、パリで、オーギュスト・デュパンと知り合う。意気投合した私たちは、静かな地域に邸宅で同居するようになる。その頃、パリをにぎわせる事件が起こった。密室状況で、娘が暖炉の煙突に突っ込まれて死んでいた。同居していたその母親は、地面に倒れていたが、その首が切られていた。事件の際、物音に気付いた人々は、母娘の他に、何者かの声を聞いていた。 犯人は知っていたのですが(いろんなところで目にしているような…)、それでも楽しめました。恥ずかしながら、ポーの小説の主要な探偵の名前がオーギュスト・デュパンというのは、今回はじめて知りました。ルブランのルパンと一瞬混乱しました(ルブランも読んだことがないのですが…)。 デュパンの推理の中でも、「言い争っていた第三者の言語」に関する部分はわくわくしながら読みました。推理小説をもっとわくわくしながら新鮮な気持ちで読んでいた頃に本作を読んでいたら、もっと純粋に感動しただろうな、と思います。 「落穴と振子」 いつものような形で内容紹介は書きませんが、これは面白かったです。宗教裁判でとらえられた一人の男性がいます。自分が入れられた牢獄の落とし穴の存在に気付き、それには落ちずにすむのですが、その後、より恐ろしい事態になります。寝台にくくりつけられ、上から、先に鋭い刃のついた振り子がゆっくりゆっくり下がってくるのです。本作は、そのような状況での心理描写がメインなのですが、久々にホラーもので純粋に「面白い」と思えた気がします。 翻訳物だし、字が割とびっしりなので、最初は流し読み気味だったのですが、途中で、これは面白いのでは、と気づき、ゆっくり読んだのでした…。 「マリー・ロジェエの怪事件―『モルグ街の殺人事件』続編」 こちらも感想メインで。マリー・ロジェエという女性が殺されて、その遺体が河で発見されました。事件の状況がありふれすぎていて、逆に捜査が難しい、という話です。本作には原注も付されていて、それによると、19世紀半ばにニューヨークで実際に起こった事件について報じた新聞記事を資料として、人名は現実に似せて作った話ということです。つまり、現実の殺人事件について、新聞のみを材料としてその謎解きを試み、それを小説という形で発表した、ということです。原注によれば、本作発表当時にはニューヨークの事件の解決がされていなかったのですが、その後、事件の関係者が告白したところによれば、本作に描かれたことが確証されたとか…。すごいですね。 物語としては、新聞記事の記者の心理分析や内容批判などが長く、面白く読めました。解説でも書かれていましたが、名探偵オーギュスト・デュパンの快刀乱麻鮮やか、という感じではありません。地道な検討作業が繰り広げられ、私はそれにおーっと感心しながら読みました。 「早すぎる埋葬」 こちらも感想メインで(疲れ気味…?)。「私」が、まだ生きた状態で埋葬されることに対する恐怖感を、具体的な生き埋め事件の事例を挙げながら語っていき、さらには自分も…!?という話でした。たしかに、埋葬後に―あるいは埋葬中も意識があるという状況の心理状態が語られるときは怖いですが、「まだ生きている間に埋葬されたということは、疑いもなくかつてこの世の人間の運命の上に落ちてきた、これらの極度の苦痛のなかでも、もっとも恐ろしいものである」(172頁)という価値観になかなか同意できなかったせいか、インパクトが薄かったように思います。 「盗まれた手紙」 こちらも感想メインで。ある大人物の手紙が、ある大臣に堂々と盗まれてしまいます。大臣は、どこに手紙を隠したのか―。「モルグ街の殺人事件」「マリー・ロジェエの怪事件」にも登場するパリの警視総監G氏が先導する綿密な調査にもかかわらず、手紙が見つからないため、G氏はデュパンの知恵を借りに来ます。 本作も有名だと思いますが、なかなか面白く読みました。真相自体はともかく、デュパンの語りが面白いです。 * * * 西村孝次さんの解説によれば、デュパンが登場する作品は、本短編集に収録された三編のようですね。古典的作品を読むのは、物語自体も面白いですし、どこか有意義な気分でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.02.28 16:45:13
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