カテゴリ:本の感想(や・ら・わ行の作家)
横溝正史『女王蜂(金田一耕助ファイル9)』 ~角川文庫、1996年改版初版~ 金田一耕助シリーズの長編です。では、内容紹介と感想を。 伊豆半島の南方に位置する、月琴島。その島の大道寺家は、源頼朝の子孫だと自称していた。 昭和7年(1932年)、二人の若者が島を訪れた。そのひとりと、大道寺家の娘、琴絵はひそかに契りを結んだ。…が、その若者は、崖から落ちて死んだ…とされている。実際は、琴絵と二人でいる際、密室状態にあった部屋で殺されたらしいのだが…。 それから19年が経ち、昭和26年(1951年)5月25日に、琴絵の娘、智子は18歳の誕生日を迎えようとしていた。18歳の誕生日に、東京にいる養父・大道寺欣三のもとへ行くことが、琴絵の遺言により決まっていた。唯一の家族である祖母の槙、琴絵の家庭教師として大道寺家に住むようになり、智子の家庭教師もつとめていた神尾秀子も同行することになっていた。 ところが、東京では、大道寺欣三のもとへ、智子は島から出てはならないという脅迫状が届く。もう一人、「匿名の依頼人」にも同様の脅迫状が届いた。「依頼人」の弁護士である加納氏は、智子が東京へ出るのに同行して欲しいと、金田一耕助に依頼をもちかける。 一方、智子は、島を出る前に、「開かずの間」―母が父を殺したと考えられる部屋に入り、血まみれの月琴を目にしていた。島を出て、伊豆の旅館・松籟荘にしばらく逗留することになったが、そこでは、彼女が入浴している間に、着替えの間の鏡に、赤い文字で警告が書かれていた。 松籟荘には、欣三が選んだ、智子との結婚候補者が3人、そして、何者かに呼び出された謎の人物・多門連太郎もいた。本来は来る予定のなかった欣三と、その家事手伝いにして内縁の妻、子供もおり、ここに役者はそろった。そして、松籟荘では、二つの殺人事件が起きる。さらなる惨劇の幕開けだった。 ときどき記事にも書いていると思いますが、私がミステリ、というか、小説を読み始めた最初のきっかけは、横溝正史さんの作品です。『本陣殺人事件』です。中学三年生の頃でしたね。高校受験もなんのその(ちょっと嘘です)、それでも、横溝さんの作品を読まないと勉強に力が入らないんだと、なんだかんだでけっこう読んでいたのを覚えています。当時はもう旧版は新刊の状態では本屋さんに並んでいなかったように記憶しています。代表作が、<金田一耕助ファイル>として、20作品選ばれたこちらの改版にかわっていましたね。他にも黒い背表紙の作品が10作品ほど残っていたのも覚えています。時は流れ、大学に入学し、古本屋に行くようになると、とにかくまだ持っていない横溝作品を集めました。横溝さんの作品(まだ、人形佐七捕物帖のシリーズは読んでいませんが)を読むのはなんともめくるめく体験なのです。 と、前置きが長くなりましたが、『女王蜂』です。20点選ばれた<ファイル>の中でも、印象的な作品の一つです。絶世の美女・智子を、警告状は「女王蜂」と形容し、そして、彼女のまわりでいくつもの殺人事件が繰り広げられる。さらに、19年前の密室殺人の謎も残されている…。わくわくします。 そして、凄惨な事件であるにもかかわらず、作中に漂う優しさ。横溝さんの文体には優しさがあるとずっと感じていましたが、今回久々に再読してみて、かなりわくわくする書き方もされているのだと、あらためて感じました。 事件の当事者たちの悲哀に胸をうたれ、先の読めない事件の展開にはらはらし、悲しい真相の後に待っていた優しいラストに感動し。本当に横溝さんの作品は素敵だなぁと、あらためて感じました。 通勤・帰宅の時間に何を読もうかなぁと考えていたのですが、久々に横溝さんの作品にふれたくなったのでした。やっぱり楽しい読書体験でした。本当に私は横溝さんの作品が好きなんだと感じました。 金田一耕助さんもとても素敵ですし。にこにこして、登場人物を安心させながら、時には厳しい態度も見せる。ますます好きになりました。 (追記) 横溝正史エンサイクロペディア(http://homepage3.nifty.com/kakeya/ys_pedia/ys_pedia_index.html)さまから、表紙画像を掲載する許可をいただきました。今後、横溝さんの作品の感想を書く際には、画像も紹介していきたいとおもいます。 なお、同サイトは、横溝さんの作品の表紙画像を網羅的に紹介しておられます。数年前に知ってから、わくわくしながら拝見していました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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