吉本ばなな『うたかた/サンクチュアリ』
~角川文庫、1997年~
2編の中編が収録された作品集です。
「うたかた」は、未婚の母と住む人魚さんの一人称で物語が進みます。結婚はしないけれど、母は父を愛している。母の友達で、父の友達でもある女性は、そんな父の家の庭に、子供を捨てて外国へ行ってしまいました。その子―嵐と、私との恋、そして私の父への思いが描かれた一編です。
「サンクチュアリ」は、悲しいことがあり、しばらくホテルに滞在していた智明さんが主人公。夜の散歩を日課にし始めてから、4日連続、海辺で号泣する女性を見かけます。見かねた4日目、彼女に声をかけ、泣くのを中断させます。同じ地域に住んでいることが分かったものの、再会するつもりはなかった智明さんですが、ある日二人は再会します。そして、二人が抱えていた悲しいことを知ることになり…という物語です。
吉本ばななさんの作品を読むのは本当に久しぶりで、本書も再読ですがほとんど忘れていたのですが、面白かったです。特に「サンクチュアリ」が好みでした。海で出会った女性―馨さんの、写真のこととか、梅ジュースのエピソードとか、印象的な描写が胸に残ります。
(2023.03.31読了)
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