カテゴリ:本の感想(や・ら・わ行の作家)
横溝正史『毒の矢』 ~角川文庫、1976年~ 金田一耕助シリーズの中編集です。表題作「毒の矢」の他、「黒い翼」が収録されています。 それでは、内容紹介と感想を。 ーーー 「毒の矢」 緑ヶ丘で、悪質な事件が横行していた。「黄金の矢」と名乗る人物から、多くの家庭に脅迫状が届くのだった。それは、その家族の一人が抱える秘密を暴露し、金品を要求する手紙だった。 金田一耕助は、同様の被害を受けた三芳欣三・恭子夫妻の依頼を受け、「黄金の矢」事件に関心を抱く。 ところが、警察でもこの事件について相談が寄せられていたが、犯人が指定の場所におかれた金品をとりにくる様子が見られないという。 その頃、同じく「黄金の矢」の脅迫を受けていた的場夫人が、近所の人々を招いた。どうやら、「黄金の矢」の正体を暴露するつもりらしかったのだが、まさにそのパーティの日、的場夫人が殺害される。アメリカにいた時分、背中に掘っていた12枚のトランプの刺青のうち、ハートのクイーンのカードに、矢が突き立てられていた…。 さらに、警察が捜査に訪れている中、的場夫人の娘は何者かに首をしめられる。 「黒い翼」 昭和31年(1956年)3?-4月。 「毒の矢」事件から間もなく、ふたたび緑ヶ丘へ訪れた金田一耕助は、映画監督の石川に誘われ、女優・原緋紗子の邸宅に招かれていた。その家では、1年前、原と同期生の名女優、藤田蓉子が砒素を飲んで死んでいた。その事件は、自殺として片付けられていたが、関係者は、その1周忌に何をしようかと相談に集まっていた。 その頃、緋紗子たちは、「黒い翼」という手紙に怯えていた。その頃流行った幸福の手紙と反対に、7人にそっくりの手紙を送らないと、「あの恐ろしい秘密が暴露し、それからひいて流血の惨事がもちあがる」というのである。 新聞記者の提案で、1周忌には、世間を騒がすこの「黒い翼」を集め、燃やしてしまおう、「黒い翼」はただのイタズラに過ぎないことを証明しようという企画が行われることになった。 企画を無事終えて、ふたたび緋紗子の家でパーティが開かれると、そこでは1年前と同様、事件が起こる。今度は二人の人間が、砒素の毒にやられて命を落とすのだった。 ーーー 二階堂さんの作品を読んで、欲求不満になってしまい、とにかく横溝さんの作品を読みたいと再読しました。 やっぱり横溝さんの作品は面白いです。安心して楽しく読めます。 表題作「毒の矢」は、トランプの刺青の謎が解明されるところや、いたいけなボンちゃんが活躍するあたりなど、とてもわくわくして読みました。そして感動のラストでは、思わず涙ぐんだり…。恐ろしい事件が描かれていますが、それでいてとても暖かみのある物語というのが、横溝作品(金田一耕助シリーズ)の特徴ですね。 ところで、とても楽しい文章があったので反転して引用します。 「金田一耕助はこの錯雑とした謎に涌然たる興味をおぼえ、ガリガリ、バリバリと、めったやたらにもじゃもじゃ頭をかきまわしはじめた。これが興奮したときのこの男のくせなのだ。あまり上品なくせとはいえないね」 こんなフレンドリーな地の文があったのかと、かなりテンション上がりました。こういう茶目っ気も、横溝さんの魅力ですね。 もともと横溝さんのファンですが、再読してますます好きになっています(笑) 「黒い翼」は、不幸の手紙のような手紙をモチーフにした作品です。私が小学生の頃は、まだ幸福の手紙だの不幸の手紙だのあったように思いますが(学校レベルだったか忘れましたし、私はかかわらずにいたように思いますが)、1956年頃にはもうあったんですね。いまではさすがにもうない…と思いましたが、そういえばチェーンメールなんてのがありますね…。これはもらったことがあります(発展させる気はみじんもないので誰にも送りませんでしたが)。それにしても、最初に幸福の手紙を出した人は、その発想はすごいと思います。 というんで、面白い一冊です。横溝さんの作品の大部分がもう絶版になっているのは、本当に残念ですね。角川文庫は、金田一耕助ファイルと銘打って20作品と、プラスαのみ残して絶版にしてしまっていますし、最近では表紙も杉本一文さんのおどろおどろしい絵ではなくなっていますし、もったいないように思います。仕方ないのでしょうけれど。 *表紙画像は、横溝正史エンサイクロペディアさまからいただきました。 (2008年2月6日読了)
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