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2008.07.11
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横溝正史『横溝正史自伝的随筆集』
~角川書店、2002年~

 横溝さんが発表していた随筆を、新保博久さんが編集した本です。発売当時買っていたにもかかわらず、6年も経ってから読むことになってしまいました。

 本書に入る前に、なぜいま本書を読んだのか、そのあたりから書いておきましょう。個人的にはNHKはあまり好きではないものの、そのNHK教育で、横溝さんを特集した番組が4回放映されました。これがどの回も面白く、あらためて、横溝さんの生涯に関心をもったことが一つ。
 もう一つは、去年の今頃から横溝作品を再読しはじめて、あらためて横溝さんの作品に魅了されたことです。おどろおどろしい雰囲気、残酷な殺人事件、旧家にひそむどろどろした怨恨…その一方で、金田一さんは飄々として温かい人柄ですし、横溝作品の多くには優しさも溢れています。トリックも謎解きも秀逸ですし、とにかく素敵です。

『真説 金田一耕助』など、横溝さんのエッセイは何冊か読んでいますが、本書はずいぶん貴重な一冊だと感じました。
 幼年期の思い出、生母の死、継母や腹違いの兄を迎えての生活などなど、横溝さんの少年時代が分かるのももちろんなのですが、横溝さんが初めて日本にエラリー・クイーンを紹介したこと、原著でディクソン・カーの本を読みあさり、どんどんカーの作風に傾倒していくなどの叙述にはわくわくしました。

 では、付箋をつけたところを中心に、面白かったところについてもう少し書いておきましょう。
 まずは、横溝さんの作品に影響を与えたエピソードや人物について知ることができます。『悪魔の手毬唄』の手毬唄は、(全部は紹介されていないですが)本当にあったこと、『八つ墓村』に登場する小竹さん・小梅さんにはモデルの双子の女の子がいたことなどなど、わくわくします。

「片隅の楽園」という一文には、先に横溝さんがはじめてエラリー・クイーンを日本に紹介したことにふれましたが、その他、横溝さんが海外の探偵小説にどんな評価を下していたか、どれだけわくわくしながらそれらの作品を読んでいたかが記されていて、とても興味深いです。
 一応文字色を反転して、一文を引用します。

伴大矩氏の持ち込んできたもの[エラリー・クイーン『オランダ靴の謎』]はもちろん原書であった。その目次をひらいてみて、各章の見出しの頭文字のつづりがザ・ダッチ・シューズ・ミステリーとなっていたり、また作者がエラリー・クイーンで、しかも、三人称で書かれている主人公が同名だったり、さらにまた、読者にたいするチャレンジがあったり、どうやら大凝りに凝っているらしいところが、趣向好きのわたしの好みに大いに合致したのである」(238-239頁)

 私は、エラリー・クイーンの作品を(まだ2、3冊しか読んでいませんが)読む前から、読者への挑戦のことや作者と探偵が同名のことなどは知ってしまっていましたので(善し悪しはともかく)、この一文を読んで、なんだかとてもうらやましいような気持ちになりました。同時に、ぱっとした探偵小説がなかなか読めなかった時代に、エラリー・クイーンの本にふれたときの横溝さんの気持ちがありありと伝わってきて、なんだかこちらまでわくわくしてしまいました。

 本書の最後の部では、江戸川乱歩さんが横溝さんに送った手紙が紹介されています。その中で、乱歩さんは、仏経と自らの作品の類似性について考察しているのですが、この考察もとても興味深く読みました。


「正史もまた永遠にして不滅である」という新保博久さんの一文の中に、素敵なフレーズがあったので、こちらも文字色をかえて引用しておきます。
「[横溝正史は]最初にして最後の探偵小説家であったのだ」(301頁)

ーーー
 上で少しふれたNHK教育の番組で、横溝さんのインタビューの映像も見ることができました。その中で横溝さんは、自分たちの時代には推理小説という言葉はなかったから、やっぱり自分の作品は探偵小説と呼んで欲しい、というようなことをおっしゃっていました。それを見て以来、私は記事のタグにも「探偵小説」と表記するようにしました。なんというか、言葉は大切ですよね。
 横溝作品の大ファンを自認していますが(まだまだ知識は足りないので、マニアとまでは言えないですが…。そして私は、マニアという言葉は否定的には使いません)、横溝さん自身のファンになっているのを感じています。本書で明らかにされるような波瀾万丈の人生を送りながらも、多くの文章に溢れる優しさ。
 本書も面白かったです。良い読書体験でした。
(2008/07/10読了)





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Last updated  2008.07.11 06:44:55
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