カテゴリ:本の感想(や・ら・わ行の作家)
横溝正史『青い外套を着た女』 ~角川文庫、1978年~ 昭和10年(1935年)~昭和13年(1938年)頃の作品を集めた短編集です。では、それぞれの内容紹介と感想を。 ーーー 「白い恋人」映画女優が、とつぜんサーカスの一寸法師を刺し殺し、自らも自刃して死亡するという事件が起こった。「私」は、事件前に彼女が告白した、奇妙な体験について回想する…。 「青い外套を着た女」フランスから帰国したばかりの画家、土岐陽三は、街角で受け取った宣伝ビラに気になる言葉を見つけた。「日比谷公園の入り口で、青い外套を着た女に会いたまえ…」。ものは試しと公園に行くと、実際に青い外套を着た女に出会う。ところが女は何者かに追われる身、彼女をまもるための奇妙な共同生活が始まった。 「クリスマスの酒場」失恋して海外に出航する緒方を、酒場で飲んで見送ろうという栗林。ところがその酒場にいた人々は、みな奇妙な縁で結ばれていて…。 「木乃伊の花嫁」鮎沢医学博士の娘・京子と鷲尾医学士の結婚式の日、鷲尾に届けられた手紙と木乃伊。贈り主は、京子をめぐって鷲尾と争うことになり、行方をくらましていた緒方と思われた。ところが、鮎沢家の天井裏では、顔も指紋もつぶされた人物が殺されていた…。 「花嫁富籤」元ダンサーの絹代は、以前、見知らぬ男から「花嫁富籤」の半分を受け取っていた。「花嫁富籤」…それは、当選者に花嫁(花婿)衣装と副賞の1万円をプレゼントするという、デパートの企画だった。そして、ある朝。絹代は、自分の富籤が当たっていることを知る。 …が、半分では賞品が出せないということで、残り半分を持つ人物が探されることになった。 「仮面舞踏会」…奇妙な復讐劇。(同題の長編とは関係なし) 「佝僂の樹」バスの中で出会った青年から手渡されたある包み―それを、ある女性に届けることになった慎介は、彼らの中にあった恐ろしい事件のことを知ることになる。 「飾窓の中の姫君」毎日デパートの飾り窓に経っている和子は、自分が令嬢とそっくりだと知って仰天。ところが、その令嬢が和子のところを訪ねてきて、身代わりになってほしいという。令嬢の家族も間違えるほどうりそっくりの二人。仕事の方も心配だけれど、恋人の方も心配で…。それでも和子は、思い切って身代わりの話を受け入れて…。 「覗機械倫敦綺譚」冤罪で監獄に入れられていたブレンダは、わずかなお金を手にあてもなくロンドンに向かう。ところが、その電車の中でお金持ちの少女に出会い、しかも彼女が急死したものだから、思い切って彼女のふりをして過ごすことを決意する。しかし、おかげで恐ろしい目に遭うことに…。 ーーー 読了から感想を書くまでに時間が経ってしまったので、紹介も消化不良な感じですが…。 この手の初期作品集では、私はミステリ以外のほのぼの物語が好きなのですが、本書でも「クリスマスの酒場」「花嫁富籤」「飾窓の中の姫君」が良かったです。「飾窓…」はちょっとオチが残念でしたが、他2編は楽しめます。特に「クリスマスの酒場」は素敵です。クリスマスで酒場となると、昨年高田崇史さんが出された『クリスマス緊急指令』の中に収録されたいくつかの短編を連想しますが、横溝さんのも負けず劣らず良いと思います。こういう優しい物語が大好きです。 「覗機械…」もミステリではなく、講釈風の語り口で書かれていて楽しいのですが、急死のシーンは突飛すぎてびっくりでした。なんとこの作品、初出のときはトム・ガロン作、蓼科三訳として発表されたそうです。横溝さんはそれこそ乱歩名義で作品を発表してもいますし(これは特殊だとしても)、いろいろ筆名があるようですね。 *表紙画像は横溝正史エンサイクロペディアさまからいただきました。 (2008/08/25頃読了)
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