カテゴリ:本の感想(や・ら・わ行の作家)
若竹七海『スクランブル』 ~集英社文庫、2000年~ 連作短編集風の長編です。6つの物語が収録されていて、それぞれに事件が起こるのですが、その全体には冒頭の物語で起こる殺人事件の解明が関わっています。 では、簡単にそれぞれの短編(?)で起こる事件にもふれながら、内容紹介を書いておきます。 ーーー 1980年1月22日。新国女子学院のシャワールームで、身元の知れない女性が変死していた。後に被害者の年齢は、17歳だったと判明する。 「スクランブル」視点―彦坂夏美。 シャワールームでの事件の後。B組の夏美とマナミは、担任に呼び出される。 彼女たちと仲が良く、同じく彼女たちが所属する文芸部の部長・宇佐のいる教室、F組で盗難事件が続発しているという。盗難されたのは、弁当だった。 「ボイルド」視点―貝原マナミ。 B組でも目立つ清水千賀が、シャワールームの事件で、父親が警察関係者の飛鳥を侮辱した。友人を侮辱されたマナミはタンカを切るが、その後千賀とマナミたち<アウター>の仲は悪化する。もともと、高等部から高い競争率を勝ち抜いて入学してきた<アウター>は、持ち上がりの生徒からは距離を置かれていたのだったが…。 万の悪いことに、マナミが文芸部の活動場所・コモンルームで清水千賀の悪口を言った矢先、清水が階段から落ちるという事故があった。宇佐は巻き添えをくらい、入院する羽目になってしまった。この事件で、さらにマナミたちはクラスでの居心地が悪くなってしまう。 「サニーサイド・アップ」視点―五十嵐洋子。 新国女子学院では、運動能力を持っていることがステータスとなる。なので、運動会は異様な盛り上がりを見せるのだが、今回の運動会は異変が起き、中断されることとなった。養護室で休んでいた生徒の容態がひどく悪化したのだった。スパルタとあだ名される養護教諭が一時その場を離れていたこともあり、事件は大きくなった。 体調を崩した小早川は、洋子と同じ研究会に所属する後輩だった。洋子は、同じく所属する文芸部の沢渡と、小早川の話を聞くが、ある一言に小早川の態度が変わってしまう。 「ココット」視点―沢渡静子 沢渡とともに図書委員をつとめていた鹿島は、案の定途中で帰った。帰り間際、夏美に話があったけれど、明日伝えることにしたと言い残して。その夜、鹿島は交通事故で亡くなってしまう。鹿島は、何を夏美に伝えようとしていたのか。 また、その時期、本を一番借りていたのは鹿島だった。本など読みそうもない彼女だったが…。 「フライド」視点―飛鳥しのぶ 修学旅行の班割のことで、夏美を怒らせてしまった飛鳥。彼女はさして仲の良い同級生からほとんど無理矢理班に誘われていたのだった。彼女たちのグループが分けられないようにするためだけに。 そのことで悩んでいる頃、飛鳥は宇佐が行う現場検証に立ち会った。宇佐は、シャワールーム事件の再検討をしていたのだった。そして、彼女は真犯人を知ったらしい…。 「オムレット」視点―宇佐春美 文化祭の日、明らかになった図書館の本の盗難事件。ある先生が文芸部の生徒の中に犯人がいると言い始め、騒ぎはますます大きくなる。 …それから、15年。文芸部のメンバーは、あるメンバーの披露宴に集まった。そしてあるメンバーはそのとき、15年前の事件の真相に思い至る。 ーーー しばらく前に買っていたのですが(なんと、昨年11月ですね)、今回やっと読みました。 最初の3ページで、なんと面白そうなんだとかなり本書を読み進めるのが楽しみになりました。良い出だしですね。 殺人事件の解明も行われますが、同時に6つの、いわゆる日常の謎もあり、充実した一冊です。 また、主人公たちが文芸部に所属していて、しかも全員本好きということもあり、いろんな本について言及があるのが楽しかったです。知らない本がたくさんあり、世界が広がりました。 本に関して一つ、印象的だった部分を引いておきます。 「昔、親が岩波の子どもの本ってシリーズを買ってくれてたんです。(中略)その見返しに<本のお願い>っていうのがあって、読む前には手を洗って、とか、ふせるのはいやだよ、とか、ほうりだしたらいたい、とか。本に表情のある絵がついていて、以来、乱暴に扱えなくなりました」(152-153頁) この部分を読んで泣きそうになってしまいました。なるたけ丁寧に本を扱っているつもりですが、割と本がいやがることもしているな、と。研究の作業中にふせまくったり積み重ねまくったりは仕方ないとも思いつつ、子どもの頃にそういう体験をしているのは大事だと思います。 個人的には、子どもの頃になにかのテレビで見た(あるいはACか何かのCMでしたか)もったいないお化けがものすごく怖くて、ときどき思い出します。 かなり話がそれてしまいましたが、面白かったです。 (2008/10/11読了)
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