カテゴリ:本の感想(や・ら・わ行の作家)
横溝正史『憑かれた女』 ~角川文庫、1978年5版(1977年初版)~ 昭和8年(1933年)から昭和11年(1936年)のあいだに書かれた、3編の作品が収録された短編集です。 横溝さんが喀血して長期療養に入る前の作品集ですね。 それでは、それぞれについて簡単な内容紹介と感想を。 ーーー 「憑かれた女」きてほしくないときに限って激しく不安が高まり、いまにも狂ってしまうのではないかと恐れるエマ子。彼女は、アパートでは、ときおり巨大な目やバラバラになった体の部位がかけめぐるのを見るという。 そんな彼女を気に入ったという外国人男性がいるという。その使いの者に車に乗せられ、目隠しまでしてたどり着いた先の家では、浴槽に女の死体があり、暖炉では火が燃えさかっていた…。 この体験を、自称探偵小説家に相談すると、彼はエマ子が連れて行かれた邸宅を発見する。しかしそこでは、エマ子と憎み合っていた女が殺されていた。 「首吊り船」政府高官の妻、五十嵐絹子から、敏腕新聞記者・三津木俊助は相談をもちかけられた。満州にいた時分に知り合い、恋仲にあった瀬下亮。彼はその地で、絹子の父の謀略により失踪を遂げる。結局絹子は、五十嵐と結婚することになったのだが、ここにきて、何者かの左手の骨が届けられた。その指には、絹子が亮と交換した指輪がはめられていた…。 その話をしているときに、家のそばを流れる川に、奇怪な船が現れる。その船には、中央のポールに蝋人形が、まるで首つりをしているような姿でぶら下がっていた。 翌日には絹子の近辺の者から、捜査の妨害が入り、絹子自身も、依頼を取り下げるという。 「幽霊騎手」幽霊騎手と名付けられた紳士強盗は、いちやく有名人となっていた。お金持ちの家のみを狙う彼を主人公にした舞台「幽霊騎手」も、大人気となった。主演の風間は、幽霊騎手の被害者(しかし被害者の中には、幽霊騎手に泥棒に入られたことをどこか誇らしげに語る者もあった)から話を聞き、幽霊騎手そっくりの服装をしていた。 ある日、舞台の終わった後に、風間が懇意にしている弓枝夫人から電話がかかる。幽霊騎手そのままのかっこうで急いできてほしいというのだ。そして弓枝夫人のもとに駆けつけると、彼女とその日争っていたというその夫が殺されていた。状況は明らかに夫人に不利であったが、風間はそのときの自分のかっこうを活かして、幽霊騎手が犯人だと見せかけることにする。 なんとかその場を切り抜けた風間は、仲間とともに真犯人を捜し始める。 ーーー 表題作「憑かれた女」は、2006年に角川文庫から刊行された『喘ぎ泣く死美人』に、その原型が収録されています。エマ子という名前も一緒でしたね。本作はサスペンスフルで、終盤には由利先生が事件の問題点を整理したりと、謎解きも楽しいです。 「首吊り船」と「幽霊騎手」は、タイトルからもうかがえますが、なぞの怪人と戦うといった要素が強いです。なんとも独特の文体と怪人の存在で翻弄されますが、割に意外な真相で、思わぬ喜びでした。たしか『横溝正史読本』でも横溝さんが言っておられましたが、戦前はこんな感じで、サスペンスやアクション性の強い作品が多いですね。たしかにミステリとしては戦後の方が輝いているように思います。 といって、「幽霊騎手」はシリーズの由利先生や三津木さんは登場しませんが、先にも書いたように意外性もあり、スリルもあり、なんといってもラストの爽やかさで、楽しく読めました。 (2008/11/29読了) *表紙画像は、横溝正史エンサイクロペディアさまからいただきました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.12.03 07:05:36
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