カテゴリ:本の感想(海外の作家)
ワイルド(西村孝次訳)『幸福な王子(ワイルド童話全集)』
~新潮文庫、1968年初版(1998年58刷)~ (Oscar Wild, The Happy Prince and Other Tales [and A House of Pomegranates]) 英国の詩人で劇作家のオスカー・ワイルド(Oscar Wild, 1856-1900)は、二冊の童話集を刊行しています。『幸福な王子とその他の物語』(The Happy Prince and Other Tales)と、『ざくろの家』(A House of Pomegranates)です。本邦訳書は、その2冊に収録された計9編のワイルドの童話を集めています。扉に記された副題通り、「ワイルド童話全集」となっています。 それでは、それぞれの話について簡単にコメントを。 ーーー 「幸福な王子」一羽だけその町に残ったつばめは、幸福な王子の像に出会います。ところがはじめて出会ったとき、幸福な王子は泣いていました。町に住む、苦しんでいる人達のことを思って。つばめは、王子の願いを聞いて、彼の体から高価な宝石を取って、人々のもとへ運んでいきます。 「ナイチンゲールとばらの花」若い学生が、恋人のために赤いばらを準備しなければならなくなりました。その学生に尽くそうと願う一羽のナイチンゲールは、真っ赤なばらを作るため、自らの命を捧げようとします。 「わがままな大男」子供たちは、大男の庭で遊ぶのが大好きでした。ところが、その大男は、庭で子供たちが遊ぶのを禁じてしまったのです。ところがそれからというもの、大男の庭には春が訪れなくなってしまいます。 「忠実な友達」友達という言葉を利用して、相手を一方的に利用する人物の話です。本書の中でいちばん不快な話でした。 「すばらしいロケット」自分はすばらしいと信じている、自信過剰なロケットの話です。これもあんまり好きな話ではありません。 「若い王」美しい、若い王が、戴冠式を控えている頃、王は夢を見ました。そこで王は戴冠式で身を美しく飾ることを拒むことになります。臣下たちはそんな王を笑うのですが…。 解説でもふれられていたかと思いますが、「幸福な王子」と同じ方向の物語です。こちらも好きです。 「王女の誕生日」王女の誕生日に、いくつもの見世物が行われました。そのなかに、こびとの踊りがありました。こびとは、王女が自分の踊りを喜んでくれるのを見て、王女へ恋をしていきます。ところが…。 「忠実な友達」が不快なら、こちらはなんとも悲しい、苦しい物語でした。読後感の悪さはどちらも一緒ですね。 「漁師とその魂」一人の漁師が、人魚に恋をしました。どうすれば一緒になれるのかと尋ねる漁師に、人魚は、魂と別れてくれれば、と答えます。漁師は魔女のもとを訪れ、魂を取り去る方法を聞き出します。そして人魚と一緒になることができるのですが、しかしそれから、毎年のように魂が彼を訪れるようになります。 本書の中でいちばん長い物語で、特に魂と別れるまでの過程は、ものすごくわくわくしながら読みました。ラストの寓話は残念ながらあまり分かりませんでしたが、読み応えのある物語です。 「星の子」心優しい一人の木こりが、流星を見た後に見つけた一人の赤ん坊を拾って、育て始めます。その子はとても美しく育ちましたが、その美しさのためか、とても傲慢になってしまいました。弱い者たちを平気でさげすみ、攻撃します。ついには、その子の本当の母親だといって尋ねてきた人物が乞食で醜いからといって、その女性も追い払ってしまいます。ところがそれから、彼はとても醜い容貌になっていました。彼は、今度は自分が乞食として放浪し始めます。 …これは、なんといえば良いのでしょう。ハッピーエンドといえるとは思うのですが、幼い頃にどんな残酷でも、改心の余地はある、という寓意でしょうか。良い行いも悪い行いも、それぞれにそれ相応の報いがある、ということでしょうか。 深い物語だと思います。 ーーー こういった童話や寓話は、子供だけでなく、大人も楽しめる、というか、じっくりと勉強になる部分があります。年齢それぞれに、感じるものがあるのではないかと思います。 短い本なのに、ばたばたしていたこともあり読むのに時間がかかりましたが、良い読書体験でした。 特に表題作「幸福な王子」は有名だと思うので、教養としても読む価値があると思います。 なお、本書の解説はとても充実しています。研究文献の紹介も交えながら、ワイルドの生涯や作品についての背景を説明してくれていて、勉強になります。 ワイルドが同性愛の罪に問われた裁判については、以前、デュビーほか『愛と結婚とセクシュアリテの歴史』で読んだことがあり、知識の補強になりました。 (2009/03/27読了)
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