カテゴリ:西洋史関連(日本語書籍)
森義信『メルヘンの深層―歴史が解く童話の謎―』 ~講談社現代新書、1995年~ 一時期、童話の裏側みたいな本がとても流行ったことがありますね。私も桐生操さんの本を読んでみたものです。 ところで本書は、そんな童話(メルヘン)を、歴史学的な観点から読み解こうとする試みになっています。なんでもかんでも性的なシンボルと結びつけるような解釈にはとても批判的なスタンスで、そして説得力もあり、なにより童話を読みながら歴史的な背景を浮かび上がらせてくれる叙述が嬉しいです。 著者の森先生は、大妻女子大学教授。西洋中世の法制史、軍制史がご専門です。私が読んだことのあるのは、『西欧中世史〔上〕―継承と創造―』(ミネルヴァ書房、1995年)所収の「政治支配と人的紐帯」だけですが、興味深い論考も多数発表されていらっしゃいます。 …と、前置きが長くなってしまいました。 本書の構成は以下のとおりです。 ーーー はしがき 第1章 長靴をはいた猫―金も才能もない男の出世術 第2章 シンデレラ物語―代父母の保護下にある意地っ張りな女の子 第3章 白雪姫と虚言癖のあるわがままな女の子 第4章 赤ずきんちゃんと人間狼―赤い色の大好きな女の子 第5章 ヘンゼルとグレーテルの社会学―子捨てか親離れか 第6章 ジャックと豆の木―男の生態学 第7章 がちょう番のおんな―未熟な女のお嫁入り 第8章 三枚の蛇の葉と傭兵の出世物語―文無し男は「喧嘩」する 第9章 いばらのなかのユダヤ人―差別する側にたつ男のやり口 第10章 青ひげ物語としたたかな女―夫の財産をすっかりせしめる法 ブックガイド ーーー ものすごく久しぶりに再読しました。ですます体で記されているので読みやすく、内容もとても面白かったです。 目次からもうかがえますが、か弱い存在、あるいは悲劇のヒロインと思われていたような主人公が必ずしもそうではなかった、悪役と思われている人物たちがむしろ哀れな存在だったのではないか、という解釈がいくつもあって、興味深いです。 第2章では、シンデレラは名付け親の代父母の手厚い保護を受けていた、という解釈が面白かったです。そして、お金を落としてくれるはしばみの解釈も…。 第9章では、人の良さそうな下男が、ユダヤ人に対してはとつぜん横柄になるという姿がなかなかショッキングでした。これも、時代・社会を反映した物語だと、残念な気持ちになりますね…。○○人だから、○○の生まれだからという理由でその人(たち)のことをぼろくそに言う人間が21世紀の現代にもまたいるみたいですけれど、そういう人間は結局その程度の人間だということを忘れずにいたいものです。 第10章は、男色、大量殺戮のイメージで有名な青ひげが、実は冤罪だったのではないか、という解釈を提示していて興味深いです。なお、青ひげジル・ド・レはとても有名ですが、この方、英仏百年戦争の際にはジャンヌ・ダルクと並んで活躍されたそうです。ジャンヌ・ダルクも魔女とされましたが、ジル・ド・レも謀られたのではないか、という説もあるようで、現にある団体は、ジル・ド・レは冤罪だったとして、当時の大統領ミッテランに歴史をあらためるよう求めたそうです。 などなど、興味深いエピソードも満載の、素敵な一冊でした。巻末のブックガイドも充実しています。 森先生の気になる論文もいくつかあるので、また読んでみたいです。 (2010/01/15読了)
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