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テーマ:政治について(19786)
カテゴリ:その他
北朝鮮の核実験で世情は騒然としている。それにしても実験の翌日が新聞休刊日というのは皮肉だった。新聞は横並びの休刊日を設定することで自らの事実報道、客観報道の使命を投げ捨ててしまったようである。まさか将軍様がそこまで計算していたとは思えないが、もっとも新聞報道が求められる日に全紙一斉に休刊というのはなんとも皮肉なめぐり合わせだった。
それはさておき、「国家理性」などということばはとうの昔に死語と化しているし、彼の国に「理性」などということを求めるのはお門違いだから、ここはむしろ「計算」「損得のそろばん勘定」で状況を見たほうが正解だろう。問題は、あの国がまだ正常な計算能力を保持しているかどうかということに尽きる。 今回の核実験は、不利な状況を動かし、流動化しようとしたものだろう。状況が劣勢の時に、局面を複雑な方向へ誘導するのは非合理な行動とはいえない。むしろ勝負事の鉄則にかなっているともいえる。局面をこのまま固定化、硬直化させてじり貧に陥るよりも、むしろ流動的な状況を自ら作り出し、その中に活路を探ろうというのは考えられない作戦ではない。そういう計算のもとに今回の行動がなされたのならば、あの国にはまだ最低限の計算能力は維持されていると見ていいだろう。 しかし、腑に落ちないのはむしろ「核実験を行う準備がある」という声明を行ったことである。局面を一気に流動化するのが狙いならば、いきなり核実験を強行した方がインパクトは強かったはずだ。わざわざ事前に「核実験をするぞ」という声明を発表した意味がよくわからない。もしもこの声明そのものを活用するつもりならば、実際の実験までにある程度の時間を置かないと意味がないだろう。 「核実験をする準備がある」という声明に対して世界がどう反応するかということくらい、いくらなんでも予測がつくはずである。中国やロシアの反応を確認するためならば、外交ルートはいくらでもあるはずだし、アメリカや日本の反応は考えるまでもないし、それ以外の諸国の反応を見きわめるにしては、実験の実施時期があまりにも早すぎる。 声明から実験実施までの6日間という時間の意味が私にはよくわからない。 しかもタイミング的には日中首脳会談の直後であり、「北朝鮮の核実験阻止に向けて全力で努力をする」と発言した中国側は国際社会に対して大恥をかかされた格好になった。そうすることが北朝鮮にとってプラスに作用する可能性はないように思える。 一方、アメリカ、日本政府にとってこの実験は「追い風」になる。強硬措置に対する反対意見は事実上消えるだろうし、政権がスタートしたばかりの日本の新総理にとっては好機到来というところだろう。国民の支持率を高め、政権の基盤を固めるために願ってもない機会が訪れたと「計算」して当然である。今後、首相がどのように動くかで、今後の政権担当能力もおおむね見きわめられそうだ。政治的無能を暴露するか、有効な政治的手腕を発揮するか、それとも質の悪い扇動者であることが明らかになるか、可能性はこの三つ、ないしはそれらの組み合わせとなるだろう。 もっとも危険なのは、第一の可能性と第三の可能性の合体である。この国においては、政治家のカリスマ的資質が社会的危機に直結する危険性はかなり低いと思われる。権力の中枢を取り仕切る人間が、自ら明確な意思表示のもとに国政を一定の方向へ動かそうとすれば、ある程度のバランサーが機能するはずである。そのくらいのバランス感覚はこの国には存在していると思う。 もしもこの国が危険な方向へ突き進むとすれば、それは権力の中枢部にぽっかりと空白が生じ、その空白の中で魑魅魍魎が跋扈する、そういう状況下で危機が進行する可能性が高い。 安倍総理のもつ危険性は、彼のイデオローグ的資質の危うさにあるのでもなく、彼のタカ派的政治信条によるのでもない。 私の見るところ、彼には中空を呼びよせる奇妙な資質のようなものがある。育ちのいい、おっとりとした、他人の発言にもよく耳を貸す、そのような資質が、前首相に好感をもって迎えられ、今日の地位に彼を導いたのであろう。 しかし、その同じ資質が、この国に深刻な危機をもたらす危険性がある。 一言でいうと、彼は「優秀な傀儡」となるおそれがある。権力の中空状態を作る人間の資質を備えている。私が以前から危惧していたのは彼のそういう部分なのである。 はたしてそのようなおそれが杞憂に終わるかどうか、それを判断すべき機会が、近隣国の無謀な賭けによって唐突に訪れることになったというわけである。 もしも北朝鮮の「計算能力」がまだ正常に作動しているとするならば、今後、彼の国は六ヶ国協議に中国、ロシアの働きかけによって参加することでバランスをとるとともに、日米と中ロの間にくさびをいれることを考えるだろう。韓国の政権はほとんど死に体となっているように思える。少なくとも状況の変化に機敏に対応する反射神経が麻痺を起こしているのは間違いないだろう。韓国が今後東アジアの情勢変化に主導権を発揮することはないだろうというのが私の考えである。今回の日韓首脳会談における靖国の問題の取り扱いを見ても、そのことは容易に推測できる。すでにあの国の中枢は脳梗塞に陥りかけている。ひょっとすると政治的判断においては北朝鮮以下かもしれない。 政治家に正確な将来予測と計算能力が求められる時代になってきた。 こういう時に備えて冷静な計算能力の持ち主を権力の中枢に据えておくことが必要だったのだが、今の日本ははたしてそのことに成功しているだろうか。 計算なら官僚にやらせておけばいい? どれほど優秀な計算機であってもその入力には人間が必要になる。計算機に入力を頼むわけにはいかない。 ここ数ヶ月の間にかなりの程度、使える政治家、使えない政治家の見極めがつくことだろう。 これからはその見極めの時期である。 危機はひとり北朝鮮の核兵器のみに限らないのである。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.10.10 22:29:51
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