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ヒロガルセカイ。

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柊リンゴ

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2006/03/31
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男の子は助手席に座り、大事そうに紙袋を膝の上に乗せました。
おじさまはおなかを引っ込めながらシートベルトをかけます。
「真夏。ひとりで全部食べるな。ちゃんと母さん達にもあげるんだぞ。」
「そう?太ったって気にしてたよ、母さん。鞠香は元からだけど。」
男の子は窓の外を眺めています。
 
 ああ・・あのオレンジのスライスの乗ったタルトも良かったな。
 スライスの下はバニラビーンズを加えた
 フレッシュなクリームがベストだ。
 甘酸っぱいオレンジに甘いクリームのあわせ技。いいかも。

「・・おい真夏。母さんはタルトの固いのがいいんだろう?」
「固いんじゃなくてさ。」
「ちゃんと母さんにもあげなさい。折角買ったのに。
 どうしてお前が全部食べるんだ。」
「だーから。母さん太ったよ。おやじが毎日ケーキ食わせるから。」

おじさまはハンドルを ぎゅうううと握って叫びました。
とても悔しいご様子です・・。
「そうなんだ。どうしてだ。
 昔の母さんは・・こう、すらっとして・・なのに。
 真夏が毎日甘いものを食べるから、母さんは、ぶうちゃん だ。
 見るも無残だ。
 真夏。お前のせいだ。父さんの思いをどうしてくれる。」
男の子は、こんな近さで叫ばれて困惑しています。
しかも車内で・狭いのです。
それに・・この人に早く運転させて帰宅しませんと、タルトが
自分の肌の温度でぬるくなります。
それは・・・避けなければなりません。
「だ・大丈夫だって。気になんないよ。俺以外の家族、
 みんな ぶうちゃん じゃん。」

おじさまは自分のおなかをたたきました。
ごむまりのような、 ぼみょん ・ ちゃぷん と音がしました。

「真夏。覚えてろよ。そのうちお前も仲間だ。」

動き出した車に安心した男の子は、また窓の外を眺めようと
横を向きました。
 ・・確かに俺だけ太らない・・・。
 まあいいか。

物事を深くは考えない。その場を切り抜けられればいいや。
ひょうひょうとしたこの子は 真夏 です。
女の子のような名前をつけてもらっていますが、男の子。
毎日夕方の学校帰りに、おじさま・・お父さんの会社に寄っては
ケーキ屋に連れ出す高校生の男の子。
お父さんとは似ても似つかぬきれいな顔立ちのおかげで、
お父さんの会社でも有名な・・真夏です。

先ほどまで狭い車内で繰り広げられた押し問答を、
お店の中から見ていた 男の子がいました。
真夏と同じ学校の制服を着て、眼鏡をかけた長身。
タルトを注文しませんし・・それどころかタルトに見向きもしないで
窓をなめるように見ている この男の子に・・店員さんは。
<この子もかっこいい顔をしているのに。なんてお気の毒。>
と哀れに思いました。





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Last updated  2006/03/31 03:50:32 PM



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