「ねえ。俺 そんなに安くないよ。」
真夏は腹をくくりました。男は度胸。急場しのぎだ。
挑戦的な目つきに立秋は・固まりました。
襟をつかんで首を斜めに向けさせて、
その唇を 真夏は一瞬 吸いました。
掴んでいた手を払って・立秋を突き飛ばしました。
「ロールケーキの分ね、それ。」
そしてそのまま・・真夏は実習室を出て行きました。
何が起きたか。何をしてくれたのか。
答えは自分の唇の 甘い味 にあるのです。
立秋は唇をなぞりました。
これ以上は、ロールケーキでは望めない。
ならば。・・どうするのですか。
「なんだあ・こら。男子が実習室に用事なんかないだ・・・真夏?」
「あ。せんせいだ。」
「どうした真夏?こんなところから出てきて。盗み食いか?」
ひとつ切り抜けたら。また何かに・はまるのでしょうか。
担任の先生に出くわしました。
この先生は大学出たての若者のくせに、偉そうにするから。
クラスではちょっと人気が無いのですが・・
女の人にもてそうな人です。
黒い髪をオールバックにして、なんだか利口そう。
もし白衣を着たら、お医者様に見えそうです。
「おい真夏。」
「なあにせんせい?」
何度も名を呼ばれて、面倒くさそうに応えます。
もともと早くこの場を離れたいのに呼び止めてられて。
「誰といた。」
「は?」
「さっき、お前の彼女が探していたぞ。ほら・・最近太ったあのこ。」
「はあ。」
「眼鏡をかけた男と何処かへ行ったって。」
「はあ。」
「で。だれ?」
「誰でもいいでしょう。」
「良くないから聞いているんだ。真夏。」
なんだかしつこいですね。
「せんせい、俺 昼 食ってないの。はらぺこだからさ。
いらっとくるから。やめて。」
本当に イラッ ときていたので、正直に伝えます。
「・・なにか匂う。」
先生が突然 くんくん と真夏を嗅ぎました。
髪・・服・と嗅ぎまくり。なんだか、とてもうざいです。近いし。
「なにが?」
もう・と教室に向かって歩き出します。
「おまえギョーザ食ったろう。」
今日は誰かにかまわれる・厄日かしら。
「口あけろ。ほら。」
もう、この先生もかなりうざいですね。
「もうっ・・」
真夏の口に何か入りました・・。
紙切れ・・?ごみ・じゃないの。
「おまえ高いんだろ。」
先生がにやりと笑います。
丸めた紙切れを広げます。
1万円札がノートの端切れに包まれていました。
もう・・忘れたい感触を・・・さっきの自分の言葉に発狂しそうです。
逃げるための急場しのぎとはいえ・・見られたとは・うかつでした。
「見てたの?」
真夏ようやく聞けました。
「放課後。職員室に来い。」