330.帝国海軍と海上自衛隊(10)教練は下手だが、ダンスが上手で防衛大学の目的を達成しておると思うのか
(ウツボ)さらに中森氏は次のように続けている。「私の場合も、高校生の頃はアンチ軍隊のふりをしていたが、祖父も父も海軍士官という海軍一家の環境もあって心の底には軍人に対する憧れがあり、受験してみようという気になった」(カモメ)続けて読みます。「本来の第一志望は東大だったが、保安大学校の試験は十一月。早々と合格通知を受け取り、東大を受験する意欲は失せてしまった」(ウツボ)「私たちの少し上の世代には、やむなく一般大学や一足早くできた海上保安庁の幹部養成を目的とする海上保安大学校に進学しながらも、未だ軍人の夢を捨てきれない者も少なからずいた。こうした連中も殺到し、一期生の競争倍率は三〇倍という高い数字を記録した」。(ウツボ)「今こそ知りたい江田島海軍兵学校」(新人物往来社)によると、前にも登場した左近允尚敏氏(海兵七二・海将)は、戦後海上自衛隊に入り、昭和二十八年に防衛大学校に入校した一期生の指導を行った。(カモメ)上級生のいない一期生だから、左近允氏は海軍兵学校の一号(最上級生)の代わりとなって、カッター訓練など一期生を大いに鍛えました。(ウツボ)その左近允氏は旧海軍と海の防大生の関係を、「一期生(幹候八期)以降、若い期の防大生は、『我々は戦争に負けた海軍とは違う新しい海軍を作るんだ』と意気込んでいたが、それから半世紀が過ぎた幹候二十期代、三十期代の誰もが、海上自衛隊は海軍の後継であり、自分たちは海軍兵学校出身者の後輩だという気持ちのようである」と述べている。(カモメ)防衛大一期生が卒業したのは昭和三十二年三月です。その年の十二月には、東京のステーションホテルで行われた防衛大生のダンス・パーティ会場に辻政信衆議院議員が乗り込むという「防衛大ダンスパーティ事件」が起きましたね。(ウツボ)そうだね。有名な事件だね。辻政信はそのパーティ会場で、「士官候補生たる防衛大学校の学生が裸同然の女を抱いて踊るとはけしからん」と怒鳴ったという。(カモメ)当時衆議院議員の辻政信は元陸軍大佐で陸士三六期首席、陸大四三期恩賜、作戦参謀を歴任し、第十八方面軍作戦課長で終戦。戦後衆・参議院議員に選出された政治家ですね。(ウツボ)昭和三十六年、辻政信はラオスに潜入し失踪した。共産勢力に殺害された等の憶測が流れているが、現在まで真相は不明だ。昭和四十三年に死亡宣告が公布されている。(カモメ)この「防衛大生ダンス・パーティ事件」について、辻政信衆議院議員は、昭和三十三年三月七日の第二十八回国会内閣委員会でこの問題を取り上げています。(ウツボ)辻政信議員は同委員会で、当時の津島壽一防衛庁長官(東京帝大法学部・大蔵省次官・日銀副総裁・大蔵大臣・防衛庁長官・日本体育協会会長・日本交通安全協会会長・勲一等旭日大綬章・正三位)と、説明員として出席した槇智雄防衛大校長(慶應義塾大学卒・オックスフォード大学卒・慶應義塾大学教授・防衛大学校校長・勲二等瑞宝章・従三位)を相手にこの問題でやりとりをし、応酬した。(カモメ)最初に辻議員は津島国務大臣に国防白書について質問をした後、小幡久男政府委員(後の防衛施設庁長官・防衛事務次官)に防衛大学校の一年の維持費について質問をしたら、「約三十万円弱」と返答しました。(ウツボ)その後、辻議員は説明員・槇智雄防衛大校長に「防衛大学校の中にアカシヤ会というのがあって、ダンス部があるが」とその意味を質問した。(カモメ)槇校長は「婦人との交際も教育のうちの大事な部分」と答えたのです。(ウツボ)すると辻議員は「昨年十二月十四日、私が東京駅に行くと、防大の制服を着た学生がたくさんおり、人を待ち合わせ、若い女性を連れて腕を組んで食堂に入っていった。その数があまりに多いので、現場に行ってみると、ステーションホテルの二階で、約二百名の防大の学生が制服を着て、腕から肩を露出した若い女性を抱いて、薄暗いホールで踊っておる。その踊り方がまことに上手であります(笑い)」と述べた。(カモメ)また、「神宮外苑で長官がやられた観閲式の防大学生の行進をみたが、本当の訓練は練馬部隊の一般兵のほうが充実している感じだ。教練は下手だが、ダンスが上手で防衛大学の目的を達成しておると思うのか。あまりのことに、あきれて調べてみると、学生は、これは校長の許可を受けておると言う」と発言しました。(ウツボ)さらに、「そこで竹下(正彦)防大幹事(陸士四二・陸大五一恩賜・中佐・陸軍省軍務局軍務課内政班長・戦後、陸上自衛隊入隊・陸将・第四師団長・幹部学校長)を呼び、君、あまりひどいじゃないか、こう言うと、ダンスをやって何が悪いか、と言って私に食ってかかった」と述べた。(カモメ)続けて辻議員は、「私はダンスのよしあしを議論しようというのではない。女性に対する交際を教えるのも防衛大学において必要だとおっしゃっておるが、問題は十二月十四日、一般大学の、あなたの前におられた慶応、早稲田、明治、東大の学生の諸君はどうしておられたのか。親から仕送りされる学費が足りなくて、あの寒い年の瀬を、アルバイトをやってデパートの歳暮配りをやっておる」と言った。(ウツボ)さらに続けて、「一般の学生はアルバイトをやって夜遅くまで働いておるのに、三十万円の税金をもらって特殊の目的に訓練をされておる防衛大学の学生は、校長、幹事以下四十人の職員が参加して、人の目もはばからずに、あの東京の表玄関を借り切って、七万円の金をかけてダンス・パーティをやるということが的はずれでないとお考えになるのか。どうです」と言い切った。