宿木 -18-
宮はたいそう心苦しくお思いになりながらも、好色なご性質でいらっしゃいますから、六の姫からも立派な男と思われたくて、優雅な香を焚きしめておいでになるご様子はいいようもなく上品でいらっしゃいます。宮をお迎えになる六条院でもたいそう豪華に飾り付けをしてお待ち申し上げます。『六の姫はどうも小柄で華奢な方ではなく、ほどよく成長しておいでのようだったが、お人柄はどんなであろうか。大げさに勿体ぶって柔和なところがなく、高慢なお方であったらどうしよう』などお思いでしたが、そのような姫君ではなかったのでしょう。宮もまんざらではないようにお見受けしました。秋の夜長ですのにご来訪が遅かったせいでしょうか、ほどなく夜が明けました。二条院にお帰りになっても西の対へはすぐにお渡りにならず、しばし寝殿でお寝みになってから六の君に後朝のお文をお書きになります。おそばにお仕えする女房たちは、「あのご様子では、六の姫さまがお気に召したのでございましょう」と、互いにつつきながら話しています。「宮さまはあちらもこちらもご寵愛なさるけれど、これでは西の対の御方がお気の毒ですわね」「いずれは圧されるでしょうかしら」長い間中君にお仕えし馴れている女房たちですので、面白からず言うこともあり、どうしても妬んでしまうのでした。宮は六の君からのお返事を『寝殿で読もう』とお思いでしたが、昨夜離れていたことがお可哀そうで、寝起きのまま急いで西の対にお渡りになります。お部屋にお入りになりますと、中君は臥しておいででしたが少し起き上がってお顔がぽうっと赤みがかかって、格別に可愛らしく見えますので、わけもなく涙ぐまれてしばしじっとお顔をご覧になります。中君は恥ずかしくお思いになりうつむいていらっしゃるのですが、髪の多さといいかかり具合といい、申し分のないご様子でいらっしゃいます。宮も昨夜の細々した事はきまりが悪いせいでしょうか、すぐには言い出せず、「あなたはどうしていつまでもご気分がすぐれないのでしょう。暑さのせいとおっしゃるので秋になるのを待っていましたが、涼しくなってもすっきりしないのは困ったものですね。あれこれ手を尽くして修法をさせているのに効験がないようですね。それでも加持祈祷は日延べしてやらせてみましょう。効験のある僧がいないものでしょうか。あの、何某の僧都を夜居の修法に伺候させるべきでしたね」などと真面目なことを仰せになりますので、こんなに調子のよいことを言う宮が嫌だとお思いになるものの、お返事もなさらないのは良くないので、「私は昔から人とは違ったところがございまして、宇治でもこのように患うことがございました。でも自然に治りますので修法をなさるまでもないと存じまして」と仰せになります。宮は、「おや、ずいぶんあっさりした物言いですね」とお笑いになって、『人懐こく、愛嬌のある方では、中君に並ぶ人は他にないものだな』とお思いになりながら、一方では六の姫をお慕いになるお気持ちが生じますのは、やはりご執心でいらっしゃるからなのでございましょう。