宿木 -19-
とはいえ中君とご一緒の折にはご情愛が変わるような気配もなく、後の世まで変わらぬお約束を、言葉を尽くしておっしゃいます。それを聞くにつけても辛くて、「ほんにおっしゃる通り、この世はたいそう短くていつか薄情なお気持ちをお見せになるのでございましょうから、この世を頼みにするよりも後の世のお約束だけでも違わないようにと願います故、宮さまのお言葉を性懲りもなくお頼み申し上げましょう」と、たいそう堪えていらっしゃるのですが、今日はたまらずお泣きになります。六の君のことでこんなに宮を恨んでいることを悟られまいと、今まで何とか紛らわしていたのですが、亡き父君や姉君、宇治での暮らしなど様々思い起こすことが多く、とても我慢がおできにならなかったのでしょうか、こぼれる涙を止めることがおできになりません。それが恥ずかしくて宮からお顔を背けていらっしゃいますと、無理にこちらにお引き向けになって、「思った通りの可愛らしいお方と拝見しておりましたが、やはり他人行儀なお気持ちを抱いていらしたのですね。それともこの一夜の間にお心変わりなさったのでしょうか」と、ご自分のお袖で涙を拭っておあげになりますと、「宮さまこそ夜の間にお心変わりなさったのではございませぬか」と、少しにっこりなさいます。「おやまあ、それはずいぶん子供っぽい言い方ですよ。しかし私にはやましいところがありませんから、ご安心なさいませ。言い訳したとしてもあなたさまには私の本心がお分かりになりましょう。あなたさまが、夫婦の道理をご存じない幼さが可愛らしい反面、私は困ってしまうのですよ。私の立場になって考えて下さいまし。私は思い通りに生きられない身分なのです。もし私が春宮となり帝となるような世であれば、あなたさまを中宮とする深いこころざしをお分かりいただけましょう。しかしこれはたやすく口にするべきことではありませんから、その時までどうか長生きしてくださいませ」など細々仰せになりますうちに、六条院へのお遣いが祝い酒にひどく酔って戻って参りました。こんな時には少し遠慮するべきことも忘れて、すっかりいい気分になって西の対の南面にやってきたのです。