日本で初めてイタリア・バロック絵画の先駆者・ミケランジェロ・カラバッジョの展覧会が開催されたのは、2001年9月末から12月半ばまでを東京都庭園美術館で、年を越して2002年12月末から2月末まで愛知県岡崎市立美術館においてであった。カラバッジョの作品7点と、いわゆるカラバッジェスキといわれるカラバッジョの追随画家たちの作品による展覧会であった。
気性が激しく粗暴であったらしいこの巨匠は、私の知る限り美術史上ただ二人の殺人者のうちの一人である。
(もう一人は、イギリス・ヴィクトリア朝時代の画家リチャード・ダッド。精神に異常を来たし、父殺しでロンドンのベドラム精神病院の格子がはめられた一室に、「刑事精神病者」として死ぬまでの42年間、幽閉されていた。)
かの彫刻家ミケランジェロ・ブオナロティと同じ名前の、ミケランジェロ・メリージ、通称カラバッジョの現存作品は決して多くはない。主題もさまざまだ。が、特筆すべきは宗教関連画である。彼以前の(そして彼以後の)宗教画と一線を画すのが、モデルがごくふつうの一般庶民であることだ。マリアにしろその他の聖人にしろ、ことさら聖性をうかがわせるような高貴な顔をしていない。その時代に生き、生活している生身の人間がそのまま描かれているのである。そして、それこそが、光の扱いや重々しくも演劇的な画面創りとともに、まさにバロック美術の先駈けとなった所以である。
日本での最初の展覧会から14年が経ち(ああ! 私の目には、つい最近のように焼き付いているが----)、現在再び東京の国立西洋美術館でカラバッジョ展が開催されている。6月12日まで。
12作品が展示され、周辺画家の作品が40点余り加えられている。
カラバッジョ作品のひとつの呼び物として個人蔵の『法悦のマグダラのマリア』があり、「世界初公開」と銘打っている。しかし、これは主催者の勘違いだ(ああ、専門家にも14年の歳月か!)。前回の展覧会にも渡来している。個人蔵なので、この展覧会を逃したら、もういつ三たび渡来するか分からない。まあ、「世界初公開」の惹句に引かれて観に行くのもよかろう。
ところで、開催中の展覧会を宣伝するためにこのブログを書いたわけではない。
各紙が伝えている。未だ知られていなかったカラバッジョの作品が南フランスはトゥルーズの民家の屋根裏から発見されたというのだ。なんでもその家の持ち主が屋根の雨漏り修繕のために点検しているときに、おそらく150年間は人目に触れず埃まみれになっている絵に気づいた。2014年のことだそうだ。それから現在まで複数の鑑定家が綿密な調査をした。そして、それが非常に状態の良いカラバッジョ作品だと公表した。150億円の価値がある、と。
フランス政府は、この作品を買い取るかどうかを審議するため、同作品を海外にもちだすことを30ヶ月間禁止する措置を取ったという。痩せても枯れても美術の国フランス、やることが素早い。