|
カテゴリ:カテゴリ未分類
まずは、『論語』から。
『有子曰「禮之用、和為貴。先王之道斯為美、小大由之。有所不行、知和而和、不以禮節之、亦不可行也。」』(『論語』学而) →有子曰く「礼を用いるには、和(調和)を大切にしなさい。古の王の道も、これを美徳として、小事にも大事にもこれに則った。ただし、それでは上手くいかないことがある。和を思って和したとしても、礼節を留めておかねば、どうしてこれを実践できようか。」 『顏淵問仁。子曰「克己復禮為仁。一日克己復禮、天下歸仁焉。為仁由己、而由人乎哉?」』(同 顔淵) →顔淵が「仁」について質問した。子曰く「己に克って礼に復することを仁という。一日でも己に克って礼に復することができれば、天下は仁に帰服するだろう。仁の実践は己に由来し、他人を頼んでそれができようか。」 「礼を学ばざれば、以って立つことなし。」(同 季子篇)等々ありますが、五常(仁・義・礼・智・信)にもあげられる「礼」は、儒教において、重要な徳目です。日本においても、初期の段階から記録があり「十七条憲法」でも「礼」の徳目は冒頭からあります。 『一曰、以和爲貴、無忤爲宗。人皆有黨。亦少達者。以是、或不順君父。乍違于隣里。然上和下睦、諧於論事、則事理自通。何事不成。(中略)四曰、群卿百寮、以禮爲本。其治民之本、要在禮乎、上不禮、而下非齊。下無禮、以必有罪。是以、群臣禮有、位次不亂。百姓有禮、國家自治。』(十七条憲法) → 一に曰く、和を以て貴しと為し、忤(さか)らうこと無きを以て宗とせよ。(中略)四に曰く、群臣百寮、礼を以て本とせよ。其れ民を治むるが本、必ず礼にあり。上、礼なきときは、下、斉(ととのは)ず。下礼無きときは、必ず罪有り。ここをもって群臣、礼あれば位次乱れず、百姓礼あれば、国家自から治まる。 実は、『論語』よりも、五経のうちの『礼記(らいき)』という書物の方が「十七条憲法」の描写に近いです。 『禮之以和為貴、忠信之美、優游之法、舉賢而容衆、毀方而瓦合。其寛裕有如此者。』(『禮記』儒行) →礼の実践には、和を貴いものとする。忠信を美徳とし、柔和を法とし、賢者を推挙し、衆人を受け入れ、形式を解いて衆人と和合する。君子の寛容さとはこのようなものである。 「礼」という漢字は、かつては「禮」と書きました。祭壇にたくさんの実りを捧げる行為の象形で、儒教の宗教的な態度は、「礼」からといっていいと思います。この「礼」について書かれた『礼記(らいき)』という書物は、歴史的に、大きな変遷がありまして、非常に説明が難しいんですが、大ざっぱにいうと、孔子の時代から始まって、現在の形式になったのが、だいたい二千年前の漢の時代くらい。千年前の宋の時代には、この『礼記』から『大学』『中庸』が独立して扱われるようになります。『儀礼』『周礼』と並んで「三礼」とも呼ばれます。 この『礼記』は、日本人にも身近な書物です。 『六禮:冠、昏、喪、祭、鄉、相見。七教:父子、兄弟、夫婦、君臣、長幼、朋友、賓客。』(『禮記』王制) →六礼とは、冠・婚・葬・祭・郷・相見を言う。七教とは、父子、兄弟、夫婦、君臣、長幼、朋友、賓客である。 今でも「冠婚葬祭」という言葉がありますが、『礼記』では「冠昏喪祭」と書きます。この「冠婚葬祭」に、宴会でのお酒の飲み方(郷)とか、挨拶の仕方(相見)とかを含めて「六礼」と言います。『礼記』は、節目節目で行われる行事のしきたりについての記述が多くて、いわゆるルールブックとかマナー本といった趣がありますが、文章量は膨大で、例えば、弓道においての「礼」も、『礼記』の射義篇に強く影響を受けています。 「冠昏喪祭」のうちの「冠」というと、これ。 『人生十年曰幼、學。二十曰弱、冠。三十曰壯、有室。四十曰強、而仕。五十曰艾、服官政。六十曰耆、指使。七十曰老、而傳。八十、九十曰耄、七年曰悼、悼與耄雖有罪、不加刑焉。百年曰期、頤。』(『禮記』曲禮上) →人生における最初の十年は「幼」といい、学問をする。二十年は「弱」といいい、冠を授かる。三十年を「壮」といい、家庭を築く。四十年を「強」といい、仕官をする。五十年を「艾(がい)」といい、官職や政務に就く。六十年を「耆(し)」といい、人に指図をする。七十歳を「老」といい、教えを後人に伝える。八十、九十を「耄(もう)」といい、七歳未満を「悼(とう)」という。「耄」「悼」には、たとえ有罪でも刑罰を科してはならない。百歳を超えると「期」という。大切にしなれればならない。 ・・・「弱冠(じゃっかん)」という言葉の由来はここです。かつて日本の武士は十六歳で元服をしていたんですが、現在の成人式の二十歳という基準は巡り巡って『礼記』に戻った感じですね(笑)。 「冠昏喪祭」の「祭」でいうと、これ。 『祭不欲數、數則煩、煩則不敬。祭不欲疏、疏則怠、怠則忘。是故君子合諸天道。春禘秋嘗、霜露既降、君子履之、必有凄愴之心、非其寒之謂也。春、雨露既濡、君子履之、必有怵易之心、如將見之。樂以迎來、哀以送往、故禘有樂而嘗無樂。』(『礼記』祭義) →祭礼は何度も執り行うものではなく、多ければ煩多であり、煩雑になるのは、不敬である。祭礼は疎かにすべきではなく、疎かにすると怠けるようになり、ついには祭礼を忘れてしまう。これ故に君子は、祭礼を天道に合わせて、春には禘祭(ていさい)を、秋には嘗祭(じょうさい)を定めたのである。君子は、秋に降った霜露を踏むと、心が痛む。これは、寒さを感じてのことではない。 君子は、春に降った雨露が袖を濡らすと、畏れ敬う感情が湧く。まるでそれは、先祖に見えたかのようでもある。 楽しみて来たるを迎え、哀しみて往くを送る、故に春の禘祭には音楽があり、秋の嘗祭には音楽が無いのである。 『凡祭有四時。春祭曰礿、夏祭曰禘、秋祭曰嘗、冬祭曰烝。礿、禘、陽義也。嘗、烝、陰義也。禘者陽之盛也、嘗者陰之盛也。』(『禮記』祭統) ・・・これはそのままでも読めるかな。 現在でも神道の形式で秋に「新嘗祭(にいなめさい)」というお祭りをやりますが、元をただすと『礼記』です。 で、今回、注目したいのは「お葬式」についてです。 『夫禮之初、始諸飲食、其燔黍捭豚、污尊而抔飲、蕢桴而土鼓、猶若可以致其敬於鬼神。及其死也、升屋而號、告曰「皋!某復。」然後飯腥而苴孰。故天望而地藏也、體魄則降、知氣在上、故死者北首、生者南鄉、皆從其初。』(『禮記』禮運) →その「禮の初め」とは、飲食に始まる。焼いたキビ、捌いた豚、にごり酒を供え、じかに手ですくって飲み、茅で敲いて固めた盛り土の上に木組みを設ける。このようなことでも、鬼神に敬意を尽くしていることになる。人が死んだ場合、屋根に登り「ああ、○○よ、帰って来い!」と叫び、その後に、生米を口に含ませ、肉の煮物を供える。天を望み、地に葬るのは、體魄は降り、知氣は上にあるからである。故に、死者は北に首を向き、生者は南で饗食する。皆こうして「初め」にしたがう。 ・・・今でも「北枕」を忌み嫌うという風習がありますが、死者を弔う場合の「生者南面、死者北面」というしきたりも『礼記』にはあります。 前掲の『礼記』の文章に、遺族が屋根に上って「帰ってこい」と名前を叫ぶ描写があります。これを「復(ふく)」といって、儒教における葬儀で、重要な意味を持つ儀礼の一つです。 参照:Wikipedia 魂呼ばい http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AD%82%E5%91%BC%E3%81%B0%E3%81%84 日本ではこれを「魂呼ばい」といったりしているようでして、古い記述でいうと、中国古典の影響が強い『日本書紀』の仁徳天皇の章の中にあります。 『太子曰「我知、不可奪兄王之志。豈久生之、煩天下乎。」乃自死焉。時大鷦鷯尊、聞太子薨以驚之、從難波馳之、到菟道宮、爰太子薨之經三日。時大鷦鷯尊、摽擗叨哭、不知所如、乃解髮跨屍、以三乎曰「我弟皇子。」乃應時而活、自起以居。爰大鷦鷯尊、語太子曰「悲兮、惜兮、何所以歟自逝之。若死者有知、先帝何謂我乎。」乃太子啓兄王曰「天命也、誰能留焉。若有向天皇之御所、具奏兄王聖之、且有讓矣。然聖王聞我死、以急馳遠路、豈得無勞乎。」』(『日本書紀』巻第十一 大鷦鷯天皇 仁徳天皇) →太子は「私は、兄王の志を奪ふべからざることを知りました。どうして長生きをして、天下を煩わそうなどとできましょう。」と言うと、すぐに自死なされた。時に大鷦鷯尊(おほさざきのみこと・後の仁徳天皇)が弟の太子が身罷られたことを聞き、驚いて、難波より菟道宮に駆けつけられた。すでに弟の太子が身罷られて三日が経っていた。ここで、大鷦鷯尊は大声で哭きだし、取り乱されて、たちまちち髮を解き弟の太子の屍に跨って、三たび「我が弟の皇子!」と叫ばれた。すると、太子は生き返り、自ら起き上がられた。大鷦鷯尊は太子に「悲しいかな、惜しいかな。何故自死などしたのだ。もし、死者に知が有れば、先帝陛下は、私たちに何とおっしゃるだろう。」すると太子は兄王に「天命です。誰が留めることができましょう。もし天皇の御所に向うことがあったなら、兄王を聖人として、お讓りすることを奏上します。聖王が私の死んだことをお聞きになると、遠路をはるばる駆け付けておいでです。どうしてもその労に報いることができませんで・・」 参照:「民のかまど」と中国古典。 http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/005190/ 『日本書紀』では、実際に蘇って「怪力乱神」になってしまいますが、仁徳天皇が儒教における「哭」と共に「復」も行っています。この「復」も一種の「招魂」です。 参照:招魂と英霊の『三国志演義』。 http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/diary/201403180000/ 今日はこの辺で。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2014.11.23 14:36:51
コメント(0) | コメントを書く |